第1号
ネーミング批評(1) |
「潤る茶」(キリンビバレッジ)か、「潤るん茶」か
…販売ターゲットによる微妙なちがい |
ネーミング批評(2) |
「ごくうま」を分析する
…忘れられた「音」への配慮 |
ネーミング批評
(過去の記事) |
これまでの掲載一覧 |
ネーミングの極意 |
「広告コンペに強い」企画書作り
…選に洩れたらコンサル料は頂きません |
|
「音相」はどんな言葉で捉えたのか |
第2号
ネーミング批評(1) |
コカコーラはどこが良いのか
…あいまいなイメージを逆用した難音感の活用例 |
ネーミング批評(2) |
「シャネル」の魅力を分析する
…ベールに包んだ気品と華やぎ |
ことば批評(1) |
「あじさい」という語の美しさ
…今も生きている万葉人(びと)の感性 |
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ネーミング批評欄について
(読者の感想) |
ネーミングの極意 |
大量案から優秀作を瞬時に選ぶ!
時間と費用を大幅に減らす「ラフ評価法」のおすすめ |
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「単音」で言葉のイメージを捉える危険な風潮
…根拠を説明しない批評は本物ではありません |
≪ネーミング批評(1)≫
「潤る茶」(キリンビバレッジ)か、「潤るん茶」か
・・・販売ターゲットによる微妙なちがい
玄米、ハト麦、コラーゲンなどをブレンドした「潤る茶」。
文字の使い方も面白いが、音の面にいろいろな工夫が感じられるので、その工夫の内容を明らかにしてみようと音相分析を試みました。
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表情解析欄を見ると、情緒感をつくる薄青色の表情語T、Q、P、S、Rの各項をトップに並べ、奥行き感をつくる逆接拍「る」を2音入れて優雅な雰囲気をもったことばであることがわかります。
また、この語のウマさは明るく強い「茶」(ちゃ)の1音を一段強く印象ずけるため、「ちゃ」の前に暗く重たいイメージを作る有声音を3音(う、る、る)を置いていることです。
このような手法を音相論では「他援効果」と呼んでいます。
また、表情語の最高点を45.0と低目に抑えたため、日本茶らしい奥行き感が作られています。
こうした種々の工夫が、この語にユニーク感を作ったことがわかるのです。
だが、この語の音の納まりの悪さはどう考えても気になります。音の流れに心地よいリズム感と安定感がないのです。
「言いにくさ」(難音感)を作っているのは「る・る・ちゃ」の3音に同じ前舌音(舌先で出す音)の連続があるのです。
言いにくいことばは、発音がしにくく聞き苦しいうえ、そこでイメージの流れが壊れるため、なるべく使用は避けたほうがよいものです。
その「言いにくさ」を避けるには、前舌音の3連続を断ち切らなければなりませんが、参考までに3音の間に「ん」を入れて「うるるん茶」という新語を作ってみました。
「ん」の音は、音声学では特殊音素といって、音が持つべき要素(調音種)を持たない特別な音ですが、これを間に入れることで前舌音の連続が切れ、難音感がなくなります。
「潤るん茶」をついでに分析してみましょう。
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「ん」が1音入ったことで、濃い青色の表情語「軽快感」(F)と「新奇さ」(C)が入り、音の数も1音増えたため逆接拍が作る複雑さが弱まって、明るくモダンな若者向きのことばになっています。
その明るさやモダンさが、この商品にとって有効なものかどうかの判断は企業が企図された販売ターゲットがとちらであったかによって決まるのです。
≪ネーミング批評(2)≫
「ごくうま」を分析する
・・・忘れられた「音」への配慮
「コクがうれしい・ごくうま」というキャッチ・ワードで昨年、アサヒが売りだしたビールです。
「コク」が売りもののビールなら、ネーミングが伝えるイメージにも「コク」と「ビール」は大事なコンセプトとして音相的にも表現されていなければなりません。
この語がそれをどの程度捉えしているかを見てみようと、音相分析をしてみました。
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「コク」という概念をイメージ的に表現するには、表情解析欄に優雅さや奥行きを作る「静的」(T項)、「高級、充実感」(R項)、「安定感」(Q項)、「優雅さ」(S項)などの表情語が高点で出ていなければならないし、のど越しが爽やかな「ビール」のイメージを伝えるには、「シンプル感」(A項)、「新奇感」(C項)、「軽快感」(F項)、「庶民的」(M項)、「爽やか」(N項)、「健康感」(O項)などが高点でなければなりません。
分析表をみると、「コク」を作るP、Q、R、S、T項はすべてを捉えていますが、ビールの表現に必要なN、A、C、F、.M、O項はどれもゼロポイントになっています。
「コク」に囚われて、「ビール」表現への配慮を欠いた語であることがわかるのです。この名に、わずかでも「ビール」のイメージが表現されていたら、売上げも変わっていただろうことは言うまでもありません。
空気のように忘れがちな「ネーミングの音」の効用と怖さがそこにあるのです。
≪ネーミング批評(過去の記事)≫
これまでの掲載一覧
2007年(平成19年)9月号以前のものは「過去の記事」欄へ
≪ネーミングの極意・シリーズ≫
「広告コンペに強い」企画書作り
・・・選に洩れたらコンサル料は頂きません
CM用の映像や、ネーミングの制作コンペに提出される企画書に音相的な手法を使うと、ユニークで具体性のきわめて高い企画書が作れます。
当研究所ではテレビCMやネーミングの制作など、種々のコンペの企画書作りのお手伝いをしていますが、理論の新鮮さと具体性が評価され大手代理店が参加するコンペでもトップ採用を頂くことが少なくありません。
(当所がご提案した企画がコンペの選に洩れたときは企画料はいただきません。)
音相的な配慮は、コンペの種類によってその方法はまちまちですが、割合多い例を参考までに上げてみましょう。
1. |
テレビCMの制作コンペの場合 |
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CMの中で使われる社名や商品名の音相を分析して、その語が大衆にどんなイメージで伝わっているかを把握したうえ、より印象深くそれを伝えたり、音相的に欠陥のある語は、それをカバーする有効な映像のアイデアをご提案します。 |
2. |
ネーミングの制作コンペの場合 |
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トップの新着記事欄などに出ている「ネーミング批評」欄をクライアントにお示しして、音相分析法の有効性をご理解いただいたうえ、クライアントのご意図を取り入れながら優良案を推薦いたします。 |
3. |
大量のネーミング案から優良作を取り出すコンペの場合 |
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懸賞募集などで集めた大量のネーミング案から優良案を選ぶ作業は相当な期間と費用がかかりますし、選ぶ人の主観や好みで優良作が初期段階で捨てられるミスも少なくありません。
当研究所では、新たに開発したソフトに、クライアントが必要とされるコンセプトを入力したうえ、大量の案を音相分析して個々のコンセプト表現度を取り出すものです。この方法によって短期間、低費用で優良作を取り出す案をコンペの際に提案します。 |
以上についての詳細は、電話またはメールでお問い合わせください
「音相」はどんな言葉で捉えたのか
ことばの音相を捉えるには、どういう音がどんなイメージを伝えているかについて広く調査をしなければなりませんが、調査者の好みや主観が入らない客観性の高いものを取り出すにはどのような方法をとればよいかが、音相論と取組む上での大きな問題でした。
その方法として、初めに世論調査を考えましたが、世論調査を行なうには、全国を対象に地域別、人口別、年齢別、性別、知的階層別などの層化を行なったうえ、調査者や被調査者全員に「ことば」のイメージという機微にわたる内容を徹底させた上で行なわねばなりませんが、それは到底不可能な作業ですし、その調査では現代人を相手にした現代語の調査だけで、日本語の音相が本質的にもつものや、歴史的な流れを知ることなどはできません。
種々思案の末、私は今も現代語の中で使われているやまとことば(和語)に着目しました。
やまとことばは文字を持たない昔からこの国で使われてきた日本語の祖語ですが、国立国語研究所の調査では、われわれが現用している日常語を単語を単位に分類すると、その60%程度が和語系の単語とされています。
すなわち、いまも使われている和語は、太古以来何百億かの人たちによって音相的な価値が評価され、厳しく選択されて生き残っているものですから、日本人の音相感覚をこれほど正しく表現していることばはないと考えたからでした。
そこで、「国語辞典」(三省堂、金田一京助編集代表)所載の和語の中から「感情」を含んだ語だけを取り出して、それらを感情の傾向ごとに分け、その中で使われている音(音相基)の内容を調べることにしたものです。
しかしながら、ある語に感情があるかないは、見方によって違った判断が成り立つものも少なくありません。そこで、「感情」の定義づけを種々変えるなどして数度にわって調査を繰りかえした結果、1289語を確定することができました。
そのデーターを元に、種々の展開がスタートしたのです。
≪ネーミング批評(1)≫
コカコーラはどこが良いのか
・・・販売ターゲットによる微妙なちがい
世界中で知らぬ人のないドリンクの名ですが、このネーミングはどこが良くて成功したのでしょうか。
音相分析法は具体的根拠をもとに、次のように説明します。
この語が伝えているイメージを、コンピューターから取り出した分析表で見てみましょう。
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表情解析欄を見ると、「庶民的」(M)、「現代的」(H)、「合理的」(J)などををトップで捉えているため、大衆的で日常性の高いイメージをもつ語であることがわかります。
またそれとは反対の、優雅さや静謐(せいひつ・・・静か、穏やか)なイメージをつくる表情語、「安らぎ感」(P)、「静的」(T)、「安定感」(Q)、「高級感」(R)、「優雅さ」(S)も多いため、トップで捕らえた「陽」のイメージ(日常性や大衆性)が「陰」の方向へ引き戻されて、それだけ「陽」のイメージを弱めています。
さらに清涼飲料を表現するのに欠かせない「清潔感」(O)、「爽やかさ」(N)、「軽快感」(F)、「躍動感」(B)、「シンプル感」(A)がどれもゼロ・ポイントのため、語全体が伝えるイメージがさらに明白さを欠くものになっています。
このような、全体から伝わるイメージが不透明な語は、成果の期待できないネーミングといえますが、この語の場合はその不透明感を逆用して、強烈なインパクトをもつ語に仕立てています。
それは、冒頭の無声破裂音「コ・カ・コ」に強い難音感(言いにくさ)があることです。
「コ・カ・コ」は3音とも「無声破裂音」ですが、破裂音系の音が3音以上連続すると舌がもつれて「言いにくさ」が生れます。言いにくいことばは音の流れを乱すため一般的には避けなければならないものですが、この語はその言いにくさを使って、口中で炭酸のはじける刺激的な感触を表現しているのです。
もともとイメージ的な方向性をもたないため、この難音感がとりわけ明白な個性となって印象不覚伝わってくるのです。
めったに現われない、頭脳的な作品といえましょう。
≪ネーミング批評(2)≫
「シャネル」の魅力を分析する
・・・ベールに包んだ気品と華やぎ
画像をクリックすると大きくなります。
表情解析欄を見ると、優美な女性をイメージさせる表情語、「暖かさ」(P)、「静的」(T)、「安定感」(Q)、「高級感」(R)、「優雅感」(S)を高点で捉えたうえ、若さを伝える「軽快感」(F)、「鋭さ」(L)、「合理的」(J)、「シンプル感」(A)を低めに添えて、優雅さと若やぎ感をないまぜた美しいイメージのことばに仕立てています。
また、表情解析欄の最高ポイント数を40.9ポイントと低めに抑えたところにも隠れた技術がみられます。
表情語の最高ポイント数を低く抑えると、語全体の表情が圧縮されケバケバしさや軽薄感が消えて、すべてを薄絹のベールで包んだような気品と奥ゆき感が生まれるのです。
これらの配慮が情緒解析欄の「人肌の温もり感」、「神秘的」、「弧高感」「ためらい感」などの情緒を作り、コンセプトバリュー欄にみられるように「中年以上の女性に好まれる語」の表現となるのです。
このようなイメージが生れたのは、爽やかさや暖かさを作る「有声音、摩擦音、流音、鼻音」がほどよいバランスで入っていることと、奥行き感や複雑さをつくる「逆接拍」(る)が1音入ったからであることを「有効音相基欄」が示しています。
前掲の「コカコーラ」とともに、有名ブランド名中の名品といえましょう。
≪ことば批評(1)≫
「あじさい」という語の美しさ
・・・今も生きている万葉人(びと)の感性
「あじさい(紫陽花)」の花がいま盛りです。
この語がわが国の文献に現われたのは万葉集(西暦780年)だそうですが、その後呼称が「七変化」から「天麻裏(てまり)」、「よびら」へと変わり、明治以後再び「あじさい」に戻ったのだそうです。
花であるのに華やかさがなく、梅雨どきの雨に打たれた憂いを含んだ風情などが、日本人の心を捉え続けているのでしょう。
この語の音相を分析すると、
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情緒感を表現する表情語「安らぎ感」(P)、「静的」(T)、「高級感」(R)、「優雅さ」(S)が上位を占め、それに「個性的」(K)、「清潔感」(O)、「明るさ」(I)がわずかに続きます。
また情緒解析欄では「孤高感」、「寂しさ」、「神秘的」、「クラシック」、「情緒的」など、この花がもつ多くのものを適切に表現する音でできた、すぐれたことばであるのがわかります。
そのような美しい語も、新らしさを求める人たちによっていろいろな名に呼び変えられ試行錯誤を繰り返し、再び「あじさい」に戻って現代人にも愛されているのを見ると、この花は万葉人から今の人までほとんど同じ音相感覚で見られているのがわかるのです。
そこに民族の情緒的な遺伝子の流れを感じるのです。
「ネーミング批評欄」について
(読者の感想)
ネーミングの好き嫌いの話はよく聞きますが、この欄のような客観的根拠に基く本格的な「ネーミング批評」が出現したことに、目の醒めるような思いで読んでいます。自分では良いとばかり思っていたブランド名にも、「全く気づかなかったが、そんな欠点がたしかにあるな」と、たびごとに感じ入っているところです。特に最近のものでは「ヤフーとグーグル」「すてきな奥さん」「Tsubaki」などに深く感銘しました。
(東京・港区・T.kuroyanagi)
マーケの仕事をしていて、ネーミングの制作にも時々関わっています。普
段、良いと思っていたネーミングが、この批評欄でさらに多くの問題点を指摘され、日ごろの不勉強をしみじみと感じ、反省しています。
この欄は、わたしにとってすばらしい教科書です。何時までも続けてほしいと、お願いいたします。
(大阪・K製薬・ H.M)
≪ネーミングの極意・シリーズ≫
大量案から優秀作を瞬時に選ぶ!
時間と費用を大幅に減らす「ラフ評価法」のおすすめ
当研究所では、商品名として表現したいいくつかのコンセプトをあらかじめコンピューターに記憶させ、続けて大量のネーミング案を入力すると、1語ごとのコンセプトの表現達成度を瞬時に取り出すソフト(OnsonicⅡ)を開発し、使用しています。
これを「ラフ評価法」と呼んでいます。
そうして選び出された候補作品の上位のものを、Onsonic vo1という別のソフトを使ってさらに精密解析し、専門家による感性審査を経て最終案を提示するものです。
これまで大量のネーミング案の絞りこみは、関係者たちの手作業で行っていましたが、熟練者でも長期間にわたり作業をしているうちに、コンセプトの理解に変化が生じたり、個人的な好みや主観が無意識に入るためその作業の段階で優良作が捨てられてゆく例が少なくないのです。
ラフ分析法を使うと、企業がその商品に真に求めているものが洩れなく取り出されるし、時間と経費が大幅に節減できるのです。
細部のコンセプトの設定や、機械的に取り出されたデータのチェックなどには高度な感性と専門知識が必要ですが、当所の専門家がクライアントのご意向を伺いながら責任をもってあたります。
ラフ評価を行うのは総語数20語以上で、本評価の語数が5語以上あるものに限りお受けしております。
「単音」で言葉のイメージを捉える危険な風潮
・・・根拠を説明しない批評は本物ではありません
ネーミングの専門家の間でも、「濁音は暗い音だから明るいことばには使えない。まして語頭におくのは禁物だ」などということばをよく聞きます。
だが「グッチ」「バヤリース・オレンジ」「バイタリス」「バズーカ」「ギア」「ディオール」など語頭に濁音をおいた人気の高いネーミングは山ほどあるのをみても、ことばが作る表情は単音の表情をつなぎあわせれば得られるような単純なものではないのです。
「a」(母音・・・有声音)は「明るい音」とよく言いますが、「a」には「明るさ」のほか「開放的、適応性、暖かさ、穏やか、無性格的、汎用的」など10の表情をもっていますし、「s」(サ行音…無声摩擦音)の音には「清らか、爽やか、健康的、清潔感、静的、非活性的、奥行き感、暖かさ、安らぎ、穏やかさ」など、やはり10の表情があります。
「a」と「s」など音の単位である「音素」は、このように多くの表情を持っていますが、他の音素が持っている表情の一部と響きあうと、その部分の表情だけが顕在化した「表情」になるのです。
たとえば、「朝」という語は「a」(ア)と「s・a 」(サ)の音素でできていますが、前記した「ア」が持つ表情の一部「開放的、明るい、汎用的、穏やか」と、「s」が持つ表情の一部「清らか、爽やか、静的、穏やか、」が響きあうことによって「朝」という「明るく爽やか」な「イメージ」のことばが生まれるのです。
このようなことばのイメージの成り立ちを知らずに「タは物を叩くイメージ」、「ペは唾を吐き捨てるイメージ」、「ガは子供が喜ぶ音」などと、自己の主観を中心に音節単位のイメージをきめ、それを使ってネーミングのコンサルや批評している人がいるようです。