≪ネーミング批評(1)≫
「TSUBAKI」(資生堂)
・・・表情の華やぎが情緒を消した
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資生堂、シャンプーのブランド名、「TSUBAKI」。
表情語のトップに「清らか、爽やか」をおき、それに「暖かさ」、「個性的」、「若さ」、「シンプル感」、「高級感」、「都会感」が続いて明白、華麗なブランド・イメージが作られています。
だがこの語には、大きな問題点があるようです。
ブランド名のように、情緒感や奥行き感がほしい語の場合は、情緒解析欄に「あいまい感」「不透明感」「不思議な感じ」などを含めた6~7語の情緒語がほしいのですが、ここでは3語しか出ていません。
そのため、この語にはことばの奥から伝わってくる「情緒」のようなものがないのです。
それは薄青色の「表情語」(R、T、Q、S項など)のポイント数が低いことによるものですが、このような音相になったのは無声音の多用 (拍数対比で67%→標準値は47%)と、高勁輝拍の多用 (拍数対比で79%→標準値は36%) に主な原因があることを、有効音相基欄が捕らえています。
無声音とは声帯を振動させずに出す「カ、サ、タ、ハ」各行音とその拗音をいい、高勁輝拍とはB(明るさや暗さ)とH(強さ)の値が標準値より高い拍をいいます。
表情語が作るイメージの絢爛さに中心が行過ぎて、奥行きや情緒感の見えない語になっているのが残念です。
≪ネーミング批評(2)≫
「すてきな奥さん」(主婦と生活社)
・・・意味と音相との見事な調和
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表情解析欄を高点順に見てゆくと、1つ1つの表情語がこの語の意味や雰囲気を適切な質と量とで捉えているのがわかります。
「すてきな奥さん」は、何をおいても爽やかで清らかさを高いレベルで持つ人でなければなりませんが、表情解析欄のトップに表情語「爽やか、清らか」を掲げたあと、「明るさ」、「高級感」、「健康感」、「穏やかさ」(静かさ)、「軽快感」、「若さ」など、すてきな奥さんのイメージに欠かせない表情語を多く捉えているのに深い共感を覚えます。
この語のうまさは、さらに高度な音相配慮があることです。
それは「明るさ」・・・以下の表情語のポイント数を思い切り低めに抑えたことです。
この欄で、これまで多く見てきたように、表情語のポイント数を低めに抑えると、表情語自体がもつ煌(きら)びやかさや明白さが圧縮されて、控え目で奥行き感とゆとりのある表情へと変わりますが、この語の場合ポイント数を抑えたことで「すてきな奥さん」の内面的な豊かさのようなものが伝わってくるのです。
このような音相が、この語のどこから生まれたのか。
それは有効音相基欄が示すように、次の音相基によるものです。
1. |
無声音の多用。(この語は拍数対比で63% → 標準は47%) |
2. |
無声化母音の多用。(この語は拍数比で39% → 標準は12%)
無声化母音とは、母音iとuが、前後にくる子音の種類によって軽やかでモダンな音相に変わるものをいいます。
この語の場合は、「ス、キ、ク」の母音「u.i.u」がそれに当ります。 |
3. |
多拍であること。(8拍)
8拍以上の語を多拍語といいます。多拍語は、存在感や奥行き感のイメージを作ります。 |
このように、音相分析はネーミングが伝えるイメージを客観性の高い「大衆の平均的感性」で捉え、それと商品コンセプトとを対比しながらネーミングのイメージ伝達効果を評価するもので、これからのネーミング制作にとっては欠かせられない技術といえるのです。
≪ネーミングの極意・シリーズ≫
「広告コンペに強い」音相技術の活用法
・・・・選に洩れたらコンサル料は頂きません
CM映像やネーミングなどの制作コンペでは「企画書」を提出しますが、そ軒各所に音相の手法を組み入れると具体的で説得力のあるものが作られます。
当研究所ではCM映像やネーミングなど、種々のコンペの企画書作りのお手伝いをしていますが、ユニークさと具体性とが評価されて、大手代理店が参加するコンペにおいてもほとんどトップで採用されています。
(当所でご相談をうけた案件がコンペの選に洩れたときは、企画の際のコンサル料はいただきません。)
音相分析の活用法はコンペの種類によってまちまちですが、例をいくつか上げてみましょう。
1. |
テレビCMの制作コンペ |
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社名や商品名が大衆にどのようなイメージで聞かれているかを音相分析して、そのイメージをさらに高め、または欠落面をカバーするのに必要な映像の傾向やアウトラインを、明白な根拠とともに提案します。 |
2. |
ネーミングの制作コンペ |
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トップに掲げた「つばき」、「すてきな奥さん」での評価例や、別表「音相分析表と評価文の実例」をクライアントに示して音相分析法への理解を得たうえ、そのご意向を十分取り入れながら、現代人の感性にふさわしいネーミング案を科学的根拠とともに推薦します。 |
3. |
大量のネーミング案から優良案を抽出するコンペ |
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懸賞募集などで集めた大量のネーミングの中から優良作を選び出す作業には相当な期間と費用がかかりますし、作業する人の主観や好みによって優良作が捨てられる例は少なくありません。
当研究所では、コンピューターにあらかじめ所要のコンセプトを入力し、それを個々のネーミング案がどの程度表現しているかを捕らえることで、優れた候補作を少ない費用で選び出すことができます。 |
詳細は、電話またはメールでお問い合わせください
「ストック商標 」の再評価を
・・・・経費節減で見落とされているもの
バブルのころ、各企業では未来の商品に使用するネーミングを商標登録する施策が広く行われましたが、その種の商標がいま企業の金庫でストック商標となって大量に眠っています。
正確な数は不明ですが、大企業では数万語、中堅企業でも1万語ぐらいの社は少なくないといわれています。
企業では商標権を維持するため、毎年それらに多額の費用を支出しています。
商標登録は、化粧品、薬品、衣料品、食品、電気製品、コンピューター、自動車、出版など45の「区分」別に申請しますから、同じ名称で商品と無関係な区分にも申請するため、45区分の半分くらいに行なう例も少なくないようです。
また認可をうけた商標は、10年ごとに一区分15万1千円の更新料を支払いますから、1.000語を20区分に申請している会社は、10年ごとに30億2.000万円(毎年平均3億200万円)を支出することになります。この費用については常々企業内で問題にはなりながら、ネーミングの価値を客観的に評価できる理論や技術がなかったため、やむを得ない支出とされておりました。
だがそのようなストック商標で、使えるものがどれほどあるかが問題です。
当研究所の経験から推測すると、その三分の一以上は使用できないものではないかと思われます。
「わが社ではそのようなチェックは、実施済み」と思われるところもおありでしょうが、企業内のネーミング関係者には音相分析ができる人はいません。ネーミングの価値を商品コンセプトとの関係で客観的に評価できる技術は「音相解析法」をおいてほかにないのです。
そこで休眠中の商標が、商品のコンセプトから見て真に価値あるものかどうかの調査が必要となります。
この調査は当研究所が開発したOnsonicソフトを用いて行います。
その方法は、ストック商標をコンセプトごとに分類し、それぞれのコンセプトをコンピューターに記憶させたうえ、該当する商標名を入力して個々の語のコンセプト表現度を捉えるのです。
分析の結果、その商品に適さないと見られるものは、他の商品群や他事業部へ回したり、社内で使用できないものは、社外へ譲渡することとなります。
「表情」は音の響きあいから生まれるもの
ネーミングの専門家の間で、「濁音は暗い音だから明るいことばには使えない。まして語頭におくのは禁物」などのことばがよく聞かれます。
だが「グッチ」「バヤリース・オレンジ」「バイタリス」「バズーカ」「ギア」「ディオール」など語頭に濁音をおいて成功している例は山ほどあるのをみても、ことばが作る表情(イメージ)はそのような単純な仕組みでできてはいないことがわかるのです。
「ア」(有声音)は「明るい音」とよく言われますが、「ア」には「明るさ」のほか「開放的、適応性、暖かさ、穏やか、無性格的、汎用的」など10の表情がありますし、「s」(サ行音…無声摩擦音)の音には「清らか、爽やか、健康的、清潔感、静的、非活性的、奥行き感、暖かさ、安らぎ、穏やかさ」など、やはり10ほどの表情をもっています。
音の単位である「音素」はこのように多くの表情を持っていて、2つの音素が持つ表情の一部分が互いに響きあったとき、その部分の表情だけが顕在化した「表情」になるのです。
たとえば、「朝」という語は「ア(a)」と「サ(sa)」の音素でできていますが、前記した「ア」が持つ表情語の中の一部「開放的、明るい、汎用的、穏やか」と、「s」が持つ表情語の中の一部、「清らか、爽やか、静的、穏やか、」の部分が響きあうため、「明るく爽やか」な「朝」のイメージ伝わるのです。