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2008年5月の記事一覧

ネーミング批評(1) 「ポカリスエット」 と 「アクエリアス」
…どちらにもある表現の不足
ネーミング批評(2) 「オリンピック」
…その実態と精神を的確な音で表した傑作ネーミング
ネーミングの極意 春のイメージを作る音
…名句に見られる「音相」の隠し味
  音相理論の集大成版
「日本語の音相」をお分けします。

≪ネーミング批評(1)≫ 

「ポカリスエット」「アクエリアス」
・・・どちらにもある表現の不足

スポーツなどの後で飲む、水分補給用のドリンクです

この種のドリンクの名前には、炭酸飲料や茶系飲料など普通の清涼飲料と違う「スポーティー」な雰囲気と、「化学的成分がもたらす効用」をイメージ的に表す音が入っていなければなりません。

これら2つのネーミングが、どの程度それを表現しているか捉えてみようと、音相分析をしてみました。

画像をクリックすると大きくなります。
ポカリスエット
  アクエリアス

まず、「スポーティー」な感じを表すには、次の表情語が高点で出ていなければなりません。

「シンプル感、明白さ」 (A項) 「躍動感、進歩的」 (B項)
「新鮮さ、新奇さ」 (C項) 「動的、活性的」 (D項)
「軽やかさ、軽快感」 (F項) 「若さ、溌剌さ」 (G項)
「都会的、現代的」 (H項) 「開放的、明るさ」 (I項)
「強さ、鋭さ」 (L項) 「健康的、清潔感」 (O項)

また「化学的成分がもたらす効用」を表すには、複雑さや多様感をつくる淡(あわ)い青色の表情語

「暖かさ、安らぎ」 (P項) 「安定感、信頼感」 (Q項)
「高級感、充実感」 (R項) 「高尚さ、優雅さ」 (S項)
「静的、非活性的」 (T項)    

が高点でなければなりません。

(注)表情解析欄の青い棒グラフは、次の違いを示します。

濃い青 ・・・ 「活力感、若さ、シンプル感、現代感」など、明るさや活性感などプラス方向を向く表情語。
淡い青 ・・・ 「高級、優雅、落ち着き、安定感」など、複雑で非活性的なマイナス方向を向く表情語。
中間の青 ・・・ プラス、マイナス、どちらにも機能する表情語。

そこで、両語の表情語を見ると

ポカリスエット(大塚製薬)

表情解析欄の高点部分に単純明白なスポーティー感をつくる濃い青色の表情語

(D項)、(J項) 、(M項)、(H項)、(A項)、(F項)

が並び、一段低めて「成分的効用」を表す淡い青色の表情語

(P項)、(R項)、(S項)、(T項)、(Q項)

が並びますが、成分的効用の表現が弱いため、一般の清涼飲料と同じようなイメージしか伝えていない語であることがわかります。

アクエリアス(日本コカコーラ)

この語は「成分的効用」をイメージさせる淡い青色の表情語

(T項)、(P項)、(Q項)、(R項)、 (S項)

を高点部分に立てているが、スポーツ感を作る濃い青色の表情語

(F項)、(B項)、(C項)

のポイント数が極めて低いため、成分的な効用ばかりが強調されて軽やかな清涼飲料のイメージを感じない語であることがわかります。

成分的な効用の強いアピールが功を奏してか、販売成果は高いようですが、この語にもしスポーティーな音が入っていたら、格段の成果が上がっていたものと惜しまれるところです。

「ポカリスエット」が成分的表現を欠いたのは、無声音と高勁輝拍が多すぎたからであり、「アクエリアス」がスポーツ感を欠いたのは、有声音と逆接拍が多すぎたからであることを、それぞれの「有効音相基欄」が示しています。

ネーミングの分析・評価を行います

≪ネーミング批評(2)≫ 

「オリンピック」
・・・その実態と精神を的確な音で表した傑作ネーミング

オリンピック

「表情解析欄」をみると、上位の部分に「オリンピック」の精神やその実体を表現するのにふさわしい必要な次の表情語が何の矛盾も違和感もなく整然と並んでいるのに驚きます。

「シンプル」、「躍動感」、「若さ」、「軽快感」、「個性的」、「活性的」、「現代的」、「合理的」、「庶民的」、「強さ、鋭さ」、「新奇さ」、「開放感」「健康的」、「にぎやかさ」・・・

また、情緒解析欄では「短期的」「激しさ」「スピード感」を捉え、コンセプト・バリュー欄では「ジュニア、ヤング、ミドルの男女に高い人気」と出ているなど、「オリンピック」がもつコンセプトを余すところなく表現している優れた語であることがわかります。

このようなイメージは、次の音相基によって生まれたことを「有効音相基欄」が示しています。

・無声破裂音系の音が多いこと

・無声化母音が多いこと

・子音拍が多いこと

・総合音価が高いこと

「オリンピック」というギリシャ語が、世界中で原音のまま呼ばれ、愛されているのは、原語が持つ音相のよさによるものだと言えましょう。「シャネル」や「グッチ」「ティファニ」などの有名ブランド名が、どこの国でも原音のままで発音され愛されている例と同じです。

ことばの音からうける美的な刺激には、どの民族にも共通する部分が相当多いことが、これらの例からわかるのです。

ネーミングの分析・評価を行います

≪ネーミングの極意・シリーズ≫ 

春のイメージを作る音
・・・名句に見られる「音相」の隠し味

☆ 山路来て 何やらゆかし すみれ草 ( 芭蕉 )
☆ 春なれや 名もなき山の 薄霞(うすがすみ) ( 〃 )
☆ 肘(ひじ)白き 僧のかり寝や 宵の春 ( 蕪村 )
☆ 春の海 ひねもすのたり のたりかな ( 〃 )
☆ ねぶたさの 春は御堂の 花よりぞ ( 〃 )

のどかな春の風情(ふぜい)を詠んだ俳聖たちの名句ですが、この中に人のこころを「春」へ誘(さそ)いこむ隠し味があるのに気づきます。

「春」のイメージをつくるには、無声破裂音系(パ、タ、カ行) の音や無声拗音やイ列音など鋭く強い響きをもつ音をなるべく避け、暖かさや穏やかなムードを作る「摩擦音」(ハ、サ、ヤ、ワ行音)や「鼻音」(マ、ナ行音)や、「事物が動く」イメージを作る「流音」(ラ行音)を多用することによって生まれます。

摩擦音や鼻音や流音が日本語の日常語で使われている割合は、使われている音の数の62%程度が標準です。17音の俳句では10.5音ぐらいとなりますが、ここであげた春の句にはそれが目立って多いのです。

☆ 山路来て… 13拍 (ヤマジナニヤラユシスミレサ) 76%
☆ 春なれや… 14拍 (ハルナレヤナモナヤマノススミ) 82%
☆ 肘白き… 13拍 (ヒジシロソノリネヤヨノハル) 76%
☆ 春の海… 13拍 (ハルノミヒネモスノリノリナ) 76%
☆ ねぶたさの… 13拍 (ネブサノハルハミノハナヨリゾ) 76%

これらの音を聞いていると、人はいつの間にか心の中で春を歩いているのです。

音相理論の集大成版
「日本語の音相」をお分けします。

木通隆行著「日本語の音相」(、小学館スクウェア刊、)はすでに絶版となっていますが、当研究所にいくらか余部がありますのでご希望の方にお分けいたします。

本書の内容は(こちら

郵便番号、住所、氏名、電話番号、冊数、配達希望時間などを研究所(こちら)あてにご連絡いただければ代金引換郵便で発送いたします。

定価3.800円。(送料、代金引換料、為替料などは当所で負担いたします)

読者の感想

●詩歌の音楽性を明らかにした画期的快著

日本の伝統的詩歌において不毛だった音楽性の重要さを解明された画期的なご研究です。俳句の実作者としても、深く琴線に触れるものがありました。

短歌や俳句の音韻面については、折口信夫の『言語情調論』などはあってもまだ不十分で、「調べ」という曖昧な概念から抜け出ておりません。先生の「音相理論」はそれを闡明されたものと考えます。

「俳句スクエア」代表、五島篁風 (医師)

●音相という素晴らしい世界を知りました

「日本語の音相」、深い感動をもって読みました。

音相を知らずに日本語の鑑賞や評論などできないことをしみじみ知りました。目の覚めるような感動でした。

(富山、日本語研究グループ hirai)