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10月の記事一覧

2007年10月20日(土)

●ほどよく捉えた静と動・「ヴァンガード」(トヨタ)

トヨタが8月から、Active & Luxury(活動感と贅沢感)をテーマにした高級大型実用車「ヴァンガード」を発売しました。
 機動性と操縦性、上質な内外装を備えた3列7人乗りの高級車です。
 そのようなコンセプトを、このネーミングがどこまで表現しているかを見てみようと音相分析してみました。
画像をクリックすると大きくなります。
表情解析欄をみると、「派手さ、賑やかさ(E項)」をトップに、
動的なイメージを作る
「シンプル感、明白さ(A項)」、「新鮮さ、新奇さ(C項)」、「動的、活性的(D項)」、「躍動感、進歩的(B項)」、「若さ、溌剌さ(G項)」 と、
静的イメージを作る
「高級感、充実感」(R項)」、「静的、非活性的(T項)」、「暖かさ、安らぎ(P項)」、「安定感、信頼感(Q項)」、 が、ほどよいバランスで捉えられているのがわかります。
 「特記事項欄」に「難音感」(言いにくさ)の表示がありますが、これは日本人に発音しにくい(「ヴァ」)音が入っているからです。
 この音は、日本語ではふだん使わないため「難音感注意」の表示となったのですが、この語の場合はその言いにくさが、エキゾティックなムードを作る効果になっているのです。
いま少しメカの高さや現代感の表現があってよかったのではという見方もありますが、わずか3拍(音)でこれほど多くのイメージを表現した作者の音相感覚には敬意を表するほかありません。

 前号であげた、同じトヨタのジープ型高級車「ランドクルーザー」(陸の巡洋艦)は高級感に偏ってたくましさや実利的な表現に欠けていましたが、「ヴァンガード」は優雅、高級感とたくましさを共に捉えたこのクルマにふさわしい音を持ったネーミングであることがわかるのです。

●「ヤバい」が若者たちに流行るわけ

「ヤバい」という語がはやり始めて十数年たちますが、今でも若者のあいだで面白おかしく使われています。
 日本語には、身に危険を感じたときのことばに「危ない、怖い、危険、不安、恐ろしい」・・・や流行語「ヤバい」などがありますが、これらの音相を分析すると、どの語にも緊迫感を伝える表情語「シンプル(A)」「特殊的(K)」、「鋭さ(L)」などが高点で入っていて、語のイメージを音響的に表現したどれも優れた語であることがわかります。
次に「ヤバイ」の表情解析欄を見ると、緊張感を示す表情語のほかに「若さ」を表す「派手さ(E)」「軽快感(F)」「活力感(D)」が高点にあるためこれまでの類義語にはなかった「若者らしさ」がとりわけ強調した語であることがわかります。
 ネーミングを考えるとき、今の若者たちがこのような高い感性と選択眼をもっていることを夢ゆめ忘れてはならないのです。

●「ムード解析法」を音相研が開発
   ・・・対話ロボットへのステップとして

音相システム研究所では、ことばのイメージを作る基本である「表情」と「情緒」の構造や機能についての研究をしてきましたが、このたび話す人と聞く人の間に生起する「ムード(気分)」を言語的記号によって捉える手法を開発しました。
 音相理論では、ことばが伝えるイメージを表情語と情緒語を用いて捉えます。
 表情語とはことばに含まれている感情を40の概念で捉えたもの、情緒語は表情語の響きあいから生まれる第二の表情を捉えたものですが、そのほかにことばが進行する過程で生まれる「ムード(気分)」というものがあります。
 それは対話者間で刻々に移り変わる感覚ですが、それを捉え、解析する手法は人工知能の開発において必須のものとなるはずです。
 「ムード」は次の区分で捉えることができます。
  1、友好的ムード
  2、まじめなムード
  3、心がゆれている
  4、穏やかなムード
  5、クールなムード
「ムード」は文や語が持ついくつかの情緒語が一定の条件を満たしたときに生まれます。
 たとえば、ある語の情緒解析欄に「複雑度が低い」「穏やか」「人肌のぬくもりがある」「純粋性」「庶民的」「大らかさ」という情緒語がある場合、「友好的」という「ムード」が生まれるのです。
 「ムード」は情緒の複合で生まれますから、情緒語を持たない文(情緒性のない文)や、それの少ない文からは取り出すことができません。

●逆接拍が作る不思議な世界

ピアノのキ-を2本の指で「ドとミ」のように同時に打つと複雑な音の響きを感じますが、2本の指を1オクターブ変えて同時に打つと「ドとミ」のときとは違う単純な音が聞こえます。
 この理屈をことばのイメージ解析に取り入れたのが逆接拍と順接拍の理論です。
 すなわち、子音と母音の明るさが「+Bと+B」、「-Bと-B」のように同じ方向をむく拍(音節)を順接拍、「+Bと-B」のように反対方向を向くものを逆接拍といいますが、ピアノの場合と同様、逆接拍は順接拍よりも奥ゆきや深みのあるイメージを伝えます。
その違いを、「金」と「銀」ということばで比べてみましょう。
 次の表で見られるように、「キン」の「キ」は子音と母音が+と+と、同じ方向を向く順接拍ですが、「ギン」の「ギ」は-と+と反対方向を向く逆接拍です。
   キ……k(+B1.3 H1.3) + i (+B1.0 H1.0)
   ギ……g (-B2.0 H1.0) + i (+B1.0 H1.0)
 そのため、「金」と「銀」はまったくべつのイメージを持ったことばになるのです。
 「金」は金属の価値では銀の50倍も高価ですが、ことばとしての使われ方には大きな違いがあるのです。
 順接構成の「キン」は「金満家、金歯、成金,金ピカ」のような表面的な美しさだけを意味するネガティブなことばにも多く使われていますが、逆接構成の「銀」は、「いぶし銀、銀座、銀の鈴、銀馬車、銀ぎつね、銀河」など内面的な美しさや豊かさを感じることばに多く、ネガティブな意味のことばには見られません。
このような順接、逆接の働きを生かしてイメージの違いを作っていることばがいろいろあります。
 「奇麗」と『美しい』
 「キラキラ」と『ギラギラ』
 「青い海」と『ブル-の海』・・・
 (順接拍ばかりでできた語を「 」、逆接拍の入った語を『 』で示しました)。
 逆接拍の入った方が奥行きのあることばであるのがわかります。
 また秋の夜、草むらにすだく虫の名でも逆接拍の入った虫には『まつむし、すずむし、こおろぎ、きりぎりす、くつわむし』が、順接拍だけでできた虫の名には「うまおい、かねたたき、かんたん」などがありますが、古くから詩歌などで歌われているのは、逆接拍が入った前者がほとんどで、美しい音色を持ちながら名前の響きが単純な順接構成でできた後者の虫は詩歌などにはほとんど出てきません。
 日本人は遠い昔から、秋の哀れをさそう虫の名には逆接拍の入ったものがふさわしいという音相感覚をもっていたことがわかるのです。

●ストック商標を再評価して経費節減を

バブルの時代、各企業では将来生産する商品のため、ネーミングを商標登録しておく施策が広く行われました。
 そうして登録された大量の商標が、いま企業の金庫でストック商標となって眠っています。
その数は、消費財を生産する中堅企業だと1万語近く、大企業だと数万語ぐらいあるといわれています。
 登録された商標は各事業部が管理運用していますが、その商標権を維持するため各企業では毎年、多額の出費をしています。
商標登録の申請は、化粧品、薬品、衣料品、食品、電気製品、コンピューター、自動車、出版など、45 の「商品区分」別に行われます。
 そのため登録するにあたっては、商品と無関係な区分のところにも同じ名称で申請しておかねばならないから、1語のときでも45区分の半分くらいに申請する場合が少なくありません。
 そのようにして認可をうけた商標は、10年ごとに一区分15万1千円の更新料を支払うことになりますから、1.000語を20区分に申請すると、10年ごと30億2.000万円(毎年3億200万円)の権利の継続料を納めることとなります。(ここで上げた金額には弁理士費用などは含まれません)
 この多額の支出は企業内で常に問題になりながら、権利維持のため、やむなく支出しているのが現状です。
 だがそれほど費用をかけるストック商標が、将来使えるものがどれほどあるかが問題です。 
 「わが社では、そういうチェックは実施済み」と思われるかもしれませんが、ネーミングの有効度を商品コンセプトとの関係で客観的に評価できる技術は音相解析法をおいてほかにはありません。
 企業内にもネーミングの専門家といわれる人はいますが、音相解析ができる人はいませんし、作家や作曲家などことばの専門家といわれている人でも大衆の平均的感性に立って客観的な評価ができる人はおりません。
 私の経験から推測して、企業内で保有しているストック商標の3分の1以上は、持続しても使用に耐えないものと見てよいようです。
 そこでストック中の商標を、商品コンセプトとの関係で使えるものかどうかのチェックが必要となります。
 当所では、この調査を2つのOnsonicソフトを用いて行います。
 まずストック商標をコンセプトごとに区分したうえ、個々のあるべきコンセプトをコンピューターに記憶させたうえ、それに該当する商標名を入力して個々の語のコンセプト達成数値を捉えるのです。
 そして分析した結果、適さないと判断されたものは、他の商品群や他事業部へ移したり、社内で使えないものは対価を得て社外へ譲渡するなどの方策をとるのです。

●Q&A

Q 音楽の普及発達が、なぜ現代人の音相感覚を発達させたのですか。(上智大生m.s)
A 脳内で音楽に反応する器官「聴覚連合野」と、ことばに反応する器官「知覚的言語野」は大脳皮質内で隣接し相互に連動しやすい関係にあります。
 そのため、戦後音楽的な刺激を受けて聴覚連合野が発達したのにともなって知覚的言語野の機能も発達し、音相感覚の向上となったのです。
vvvvvvvvvvvvvv(以下は前号の原稿です)vvvvvvvvvvvvvv

●「ビエラ」に見られる豊かな感性

いま売れ筋の薄型液晶テレビ、「ビエラ」(パナソニック製)という名のイメージを音相分析で捉えてみました。
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 表情解析欄のトップには高級感や優美さを作る薄青色の表情語「高級感、充実感」(R項)」、「静的、非活性的(T項)」、「暖かさ、安らぎ(P項)」、「安定感、信頼感(Q項)」 が並び、
続いてメカの高質感を伝える「強さ、鋭さ」(L項)」、「シンプル感、明白さ(A項)」、「個性的、特殊的(K項)」 が、
さらに現代感や若さを伝える「合理的、現実的(J項)」、「派手さ、賑やかさ(E項)」、「若さ、溌剌さ(G項)」 が並んで、商品名で表現したいコンセプトを的確に整然と捉えた語であることがわかります。
また情緒解析欄の各項が、豊かな情緒語を使ってそれらをフォローしているのも見事です。
いま少しメカの高さや現代感の表現があってよかったのではという見方もありますが、わずか3拍(音)でこれほど多くのイメージを表現した作者の音相感覚には敬意を表するほかありません。

 このようなイメージは有効音相基欄が示しているように、逆接拍とイ音を多用したことと、高調音種比および総合音価を高めたことによるものです。

●高級車表現に偏った「ランドクルーザー」

ジープの対抗車として「陸の巡洋艦」(Land Crueser)という名で売り出したトヨタの4輪駆動車です。
この語の表情解析欄を見ると、
「静的、非活性的(T項)」、「高級感、充実感」(R項)」、「暖かさ、安らぎ(P項)」、「安定感、信頼感(Q項)」、 「高尚さ、優雅さ(S項)」 など、薄青色の表情語ばかりでできているため、優雅さや高級感がストレートに伝わりますが、「陸の巡洋艦」という肝心なアピールがどこからも見られません。
 Crueser(巡洋艦)を表現するには、
「強さ、鋭さ(L項)」、「動的、活性的(D項)」、「躍動感、進歩的(B項)」、「合理的、現実的(J項)」 などに高点が必要ですが、それらがすべてゼロポイントですし、このクルマのユニークさ(特殊感)を強調するうえで必要な 「個性的、特殊的(K項)」、「新鮮さ、新奇さ(C項)」、「若さ、溌剌さ(G項)」 などもゼロのため、この名からは「高級乗用車」というイメージしか伝わらないのです。
それらは一過性の第一印象に過ぎないから気にしなくて良いという人がいますが、最初に捉えた第一印象は、いつまでも無意識的に心の奥に留まって、マイナスに作用し続けるものなのです。
 「第一印象に囚われるな」・・・ということばは、ネーミング作りにおける危険な落とし穴なのです。
 なお、この語のイメージが高級、優雅さに偏ったのは、有効音相基欄が示しているように、多拍のうえ有声音、オ・ウ音、濁音の使用が多く、無声音がクの「k」1音しかないからです。

●音相分析は極微のイメージまで捉えます

 音相のことで研究所を訪ねてこられた女性と次のような話しをしました。
 ○「貴女は、翡翠(ひすい)ということばにどんなイメージを感じますか」
 △「爽やかで(①)、純粋で(②)、高潔で(③)・・・情緒があって(④)、賑やかで(⑤)・・どんなものにも適応できる融通性(⑥)・・・などでしょうか・・・ 」
 そこで、コンピューターが取り出したこの語の分析表をお見せしながら
○「貴女は翡翠のイメージとして6つを上げられましたが、①から④まではこの分析表の表情解析欄と情緒解析欄が捉えています。「賑やか⑤」と「適応性⑥」は分析表では出ていませんが、それらはどんなところから出たものでしょうか。」

△「翡翠が好きだった生前の母のイメージから出たものかもしれません」

○ 「コンピューターが⑤と⑥を取り上げなかったのは、これらは貴女の主観的なものだったからなのです。
 音相分析では、そのような個人の主観的なものは取り出しませんが、その代わり客観性があるものは、個人が考えても思いつかないほど多くのものを取り出します。
 貴女は4つの正解を上げられましたが、分析表の表情語欄では・・・・・シンプル感、軽やかさ、清潔感、暖かさ、明るさ、高級感、溌剌さ、個性的、都会的・・・などを、
 情緒解析欄では・・・穏やかさ、クラシイク感、不透明感、神秘的、哀感、孤高感、寂しさ、大らかさ・・・など、
 合計44個のイメージを捉えています。
 これらはみな、「ヒスイ」という音を聞いて平均的な日本人が頷(うなづ)く、イメージなのです。

●送り手と受け手の「すれ違い」
・・・ネーミング制作で見落とされているもの

現代人は誰もが、ことばの音が持つイメージの良し悪しを聞き分ける高い感性を持っています。
 それは戦後に起こった音響機器の発達や、音楽の大衆化などにより脳内の音を感じる器官が発達したことによるもので、それは音相の優れた流行語「チャパツ、カッコいい、しらける、ガングロ・・・」などが全国一斉にはやったり、「ボナクア、DIY、E電、WOWOW、ビッグエッグ」など、音のイメージの悪い語はどんなに周知をしても、進んで口にする人がいないなどの現象にも見られます。
だが、ことばが持つイメージは感覚的なもののため、学者や専門家の間でも今だに「語感」という曖昧なことばでしか語られておりません。
私はこれまで、多くのネーミングの制作現場を経験しましたが、音についての検討はどこでもまったく行われておらず、意味やデザインやキャラクターなど映像的なものを中心とした昔ながらのやり方で終わっているのが現状です。
 イメージや音相が研究対象とならないのは、「音相」という厄介な学びが必要だからです。
しかしながら、意味や映像中心で作ったネーミングがいったん決まって社会へ出ると、高い感性をもつ大衆は、を音の良し悪しで評価しているのです。
 送り手と受け手のこの基本的なすれ違いが、多額の費用をかけながらヒット・ネーミングが生まれない大きな原因になっているのです。
 「音相の研究」は、これからのネーミングにとってきわめて重要な課題といえましょう。

●ネーミングの「分析と評価」を行います

しどんなイメージを持つかを解析したり、大量のネーミング候補作品から商品コンセプトにふさわしい優良作を科学的根拠をもとに選び出すなど、ネーミングやことばについての種々のコンサルテーションを行っています。
 分析表と評価文の実物は、「分析表と評価の実例」欄(ここをクリック)をご参照ください。                 
主な分析評価料 (消費税を除く)
(1) 個別評価の料金
(本評価料・・・1語ごとに分析、評価を行うもの)
             1語につき        30,000円

(2)総合評価の料金
(ラフ評価と本評価を組み合わせたもの)
 ・ラフ分析料    1語につき(50語まで)   2,000円
 ・コンセプト調整費 1コンセプトにつき    70,000円
 ・本評価料     1語につき           30,00円

(3)その他
(特別調査費、コンサル料、その他)  実 費 
 なお、(2)の「総合評価」欄の詳細は、「前号の記事」(9月①号)をご覧ください。
詳細は、当研究所へお問い合わせください。
Mail・kidoshi2002@ybb.ne.jp

「ネーミングの極意」をご希望の方へ。

「ネーミングの極意」(木通隆行著・ちくま新書刊)は絶版となりましたが、当研究所に多少余部があります。
 ご希望の方は次のアドレスに、郵便番号、住所、氏名、電話番号、冊数をご連絡ください。代金はご面倒でも郵便切手でお送りいただくこととなります。
                       Kidoshi2002@ybb.ne.jp
・価額1部800円。     小包料等は当方で負担いたします。
・本書の内容
   第一章 感じることば、消えてゆくことば
   第二章 これで十分、音相理論入門
   第三章 ブランドの価値は音相が決める
   第四章 音相は人の心を捉えるプリズム
   第五章 「音相」達人への道