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2010年4月の記事一覧

ネーミングの分析・評価を行います
「広告コンペに強い」企画書作り
・・・音相分析で生まれるユニークなアイデア
「コンサルタント」の実例
・・・ことばの「あらゆる悩みや疑問」に答えます
ストック商標の再チェックを!
・・・経費節減で見落とされているもの
音相理論の集大成書
「日本語の音相」「ネーミングの極意」をお分けします。

≪ネーミング批評(1)≫ 

新党名「たちあがれ日本」の問題点は?
・・・略称がなく、大衆を暖かく包む配慮がない

訴えたいメッセージを適切に表現していて、スローガンやキャッチコピーにも使える優れた文章ですが、この語をネーミングとして観察すると、2つの問題点があることがわかります。

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たちあがれにっぽん

1は、音の数があまりにも多いこと。

大衆から人気が得られるネーミングは6~7音ぐらいが限界といわれていますが、この語は9音(「新党」を冠すれば13音)という長さのため、冗長感があることです。

冗長感を避けるため、自由民主党(8音)は自民党(5音)、社会民主党(8音)は社民党(5音)などと略称を作ってカバーしますが、「たちあがれ日本」は略称の作りようのないことばです。

2つ目の問題は、大衆を情緒的に取り込もうとする配慮がないことです。 この語には強さや厳しさなどを伝える破裂音系の音(カ、タ、パ行音)が9音中4音と多量に入っているため、硬く冷たいイメージを強く伝えてくることばです。

政党名のような大衆を情緒的にも捉えなければならないことばでは、破裂音とは反対の、暖かく円やかなイメージを伝える摩擦音や鼻音が多く入っていなければならないのです。

摩擦音とは「サ、ハ、ヤ、ワ行音」、鼻音とは「マ、ナ」行の音ですが、現存する政党名でも、民主党、自民党を始めすべての党が摩擦音と鼻音を大幅に使っているのです。

そのような意味からも、「たちあがれ日本」というスローガンを暖かい音で表現した略称がほしかったところです。

ことばが文章としてすぐれていても、ネーミングで成功するとは限りません。文章は意味的なものが中心で評価されますが、ネーミングは語音が作るイメージで良し悪しが決まるからなのです。

(以上の内容は音相システム研究所長が4月12日TOKYO FM放送「シナプス」(番組名)で放送されたものです。)

≪ネーミング批評(2)≫ 

おぼろづきよ
朧月夜はなぜ美しいのか

朧月夜の季節となりました。

歳時記でこの語を引くと、「湿気のため月が霞んで見える晩春の情景」と出ています。 夢の中に出てくるような美しいことばですが、この語がそれをどこまで表現しているかを見てみようと、音相分析をしてみました。

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おぼろづきよ

表情解析欄の上位に高級感や優雅さを作る「静的、非活性的」、「高級感、充実感」、「信頼感、安定感」、「高尚、優雅さ」があり、情緒解析欄には「永遠感(長期的)、情緒的、ためらい感、クラシック、神秘的、夢幻的、不思議な感じ、孤高感、大らかさ」があって、神秘感やはかなさを余すところなく表現した語であることがわかります。

表情解析欄の「清らか、爽やか」の項がゼロ・ポイントになっていることに疑問をもたれるかもしれませんが、「清らか、爽やか」の項は秋空のような空気の澄んだ意味の語には有効ですが、もやった空にぼんやり浮かぶ「朧月夜」の場合はゼロである方が実態を正しく表現しているといえるのです。

この音相分析ソフトは、ことばに含まれているイメージをこのような機微のところまで正しく取出してくるのです。

なお、この項がゼロポイントになったのは、摩擦音と無声音の使用を極力低めに抑えたことによるものです。摩擦音の使用率は拍数対比で26%が標準ですがこの語は0だし、無声音の標準は42%ですがこの語では17%(「キ」1拍のみ)と極度に押さえてあるからです。

≪ネーミングの極意(1)≫ 

新しいことばの世界を拓く音相論

「カットする」と「切り離す」は意味はどちらも同じですが、「伝わってくるイメージは大きく違います。

「カットする」は「切り離す」より無表情で冷たさを感じます。また「ミルク」という語は「牛乳」より飲み物的な感じがあるし、牛乳にはやや重たい感じと滋養のような厚みを感じます。

このようなことばが伝えるイメージは、音の違いで生まれるものですが、日本人は誰もがそれらを同じような価値で聞き取る共通的な感性を持っているのです。

このような、ことばの音とその語が伝えるイメージとの関係を、具体的な根拠をもとに明らかにしたのが「音相理論」です。

この理論を使うことで、ことばが伝えるイメージの良し悪しや、それが生まれる原因などが明らかにできるし、ことばに含まれるイメージの解析により、文芸作品や作家の内面などへの取り組みをさらに深められるようになったのです。

≪ネーミングの極意(2)≫ 

音相論はなぜ日本語から生まれたのか

ことばの音が伝えるイメージを科学的な方法で体系的に捉える試みは、まだどこでも行われておりません。そのような取り組み法がなぜ日本語で開発され、体系化ができたのか。

その理由として、次のことを上げられます。

(1)日本語が純度の高い言語であったこと。

漢字、平仮名、カタカナ語のまじった現代語を見ると、日本語は外国語の影響を大きく受けた言語のように見られがちですが、この国のことばの歴史を見てくると、日本語が極めて純度の高い言語であることがわかるのです。

それはわが国が、他民族からの強い支配や干渉を受けなかったことと、先人たちの英知と努力で言語体系の基本である統辞構造(語の順序) や文法、音韻などが、ほぼ原型に近いままで受け継がれてきたからです。

大陸からの漢字の受け入れに当たっては、中国語の1字1音の原則に依らず音読みと訓読み法を考案し、平仮名、片仮名文字を作って、これらを混用させることでやまとことばの文字化が図られましたが、漢字から受け入れたのはその「字形」と文字がもつ「意味」にすぎなかったのです。

また、「精緻(せいち)」 などの熟語を受け入れるに当たっては、その語尾に形容動詞の活用「たろ、だっ、で、に、な、なら」をつけ、「精緻」の語は形容動詞の語幹、すなわち名詞として受け入れたにすぎなかったのです。

この方法は、西欧語の場合も同様でした。

「Beautiful」という形容詞の受け入れにおいても、語尾に日本語の形容動詞の活用「だろ、だっ、で、に・・・」をつけ、「 Beautiful」は形容動詞の語幹「名詞」としてしか受け入れていないのです。

このような手法をとってきたため、外来語がいかに増えても日常語の語彙(単語)が増えるプラスこそあれ、それにより日本語の言語体系が乱されることはほとんどなかったのです。

また、そのような受け入れ姿勢は、音韻のについても同ようでした。

「京」(チン)や「両」(リャン)などやまこととばの音韻にはなじまない中国語風の音韻は、「チン(京)」は「キョウ」 (どちらも破裂音系)、「リャン(両)」は「リョウ」(どちらも流音)などに、また日本語の音用にない「トゥオ、フェイ、ティア」は「ト、ヘ、チャ」のように、近似する日本語音韻に読み替えて受け入れたし、西欧語の場合でも「f(ファ行音)はハ行音」、「v(ヴァ)行音)はバ行音」、「ti、tu音はチ、ツ音」など原音と同系統の、発音容易な音韻に読み替えながら受け入れてきたのです。

(2)日本語が開音節語であったこと

音相論の体系化が日本語で容易にできた理由の1つに、日本語が「拍」の識別が容易な開音節語であったことがあげられます。

開音節語とは、拍の終わりに母音がつく言語で、日本語のほかイタリー語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語、ポリネシア語などがありますが、中でも日本語はほぼ完全形に近い開音節語といわれています。

日本語は拍の末尾に母音がくるため、拍や語の表情が捉えやすいばかりでなく、拍を単位に生まれる「逆接拍、順接拍、無声化母音、濁音、勁輝拍・・・」などの表情も容易に捉えることができるのです。

(3)日本語の拍の総数が手ごろな数であったこと

音相論の体系化が日本語で容易にできた今1つの理由として、日本語の拍の総数が適宜な数であったことがあげられます

日本語には合計132の拍がありますが、子音で終る音節の多い閉音節の言語には、音(音節…Syllable)の区切り方に一定の法則性がありません。

そのため、「strike」という語を音節で区分するとき、「s tr ike」と3音節にする人、「st rike」と2音節にする人、同じ2音節でも「str ike」に分ける人などさまざまですし、音節の総数も学者によって「1800」、「3,000以上」「10,000以上」などとまちまちです。

だが、表情語の数は合計40種しかないため、音節数が1,800以上になると同じ表情をもつ音節が数多くできるし、表情の一部が僅かに違う音節が多数でるなどで、脳におけるイメージ識別が極めて困難になるからです。

言語の音を132の単位で捉えられる日本語は、40種の表情との関係を捉えるうえで極めて適切な数であったのです。

 

音相システム研究所が行なっている事業

当研究所では、次の事業を行なっています。

1. ことばの科学が対照にしてこなかった「現用されていることば」(商品等のネーミングを含む)に含まれるイメージ(表情)を、客観的な根拠によって解析し、評価を行う各種のプロジェクト。
2. 詩、俳句、小説など文芸作品に含まれるキーワード(主要語彙、フレーズ)などの音相を分析し、作者の創作意図や心性などを解析するプロジェクト。
3. 学術用語、業界用語、俗語、外来語その他、あらゆることばが伝える「イメージ」に関する調査および論評、提案等のプロジェクト。
4. 企業等が保有している大量のストック商標や、懸賞募集などで集めた大量の未発表案から商品コンセプトにふさわしい語を、科学的根拠をもとに取出すプロジェクト。
5. 姓名の音相を分析して基本性格等を解析するほか、新生児に期待したい性格を入力してコンセプトにかなった名前を推薦する等のプロジェクト。
6. その他、ことばが伝えるイメージに関する分析、論評およびコンサルティング。

ネーミングの「分析・評価」を行います。

本号、トップの「ネーミング批評」欄などで見られるように、音相理論を使ってことばのイメージを分析すると、個人の感覚や知識では到底捉えられないようなものまで取出しますが、当研究所では次のような分析評価をおこなっています。

(1) 個別評価 ・・・  ネーミングやネーミング案について、「ネーミング批評」欄にあるような細密分析と評価を行なうもの。
(2) ラフ評価 ・・・  大量のネーミング案の中から優良案を短時間で取り出すもの。
 その商品名で表現したいコンセプトをあらかじめコンピューターに入力し、それに大量案を入力して、個々の案のコンセプトの表現度を捉えたうえ、有望案のいくつかを前記の「個別評価」で細密分析して最優良案を推薦するもの。

「広告コンペに強い」企画書作り
・・・音相分析で生まれるユニークなアイデア

CM用のテレビ映像や、ネーミングの制作コンペなどの参加される際の企画書に音相的な発想を取り入れると、具体的でユニークな提案が可能になります。

当研究所では種々のコンペの企画書作りのお手伝いをしていますが、独創的な着想による提案が高く評価され、大手代理店が参加するコンペでもトップ採用を頂くことが大変多いのです。

音相論的な発想から生まれたコンペ用の企画として、次のようなものがあります。

1. テレビCM用映像を制作するコンペの場合

CM画像に出てくる社名や商品名などのキーワードを音相分析し、その語が伝えるなイメージを捉えたうえ、それとの関係から生れるイメージをもとにした映像企画を提案します。

2. ネーミングの制作コンペの場合

大衆はことばの音に対し高い感性を持っていますが、その実態を具体的に捉えた学問はありません。そのためネーミングの専門家でも、音についての評価は個人のカンでしか行なっていないのが現状です。

そのため、多額の費用や時間をかけてもヒット・ネーミングはなかなか生まれないのです。

音相理論を使ったイメージ解析は、別紙の分析と評価例に見られるように、個人の主観を排除した科学的根拠を使って最優良案を選びます。

それが感覚的にも理論的にも他社とは異なる、優れた作品が提案できるのです。

3. 大量のネーミング案から優良作を取り出すコンペの
   場合

収集した大量のネーミング案の中から優良案を選ぶ作業は、これまですべて手作業で行われていますが、選ぶ人の主観や好みによってせっかくの優良作が捨てられてしまう例が多いのです。

当所では、クライアントから伺ったその商品のコンセプトをコンピューターに入力し、それに大量案を入力して個々の案のコンセプト表現度を捉え、上位のものをさらに細密分析して最優良作を推薦します。この方法を用いることで短期間で、客観性の極めて高いものがご提案できるのです。

コンサルタントの実例
・・・ことばの「あらゆる悩みや疑問」に答えます

当所がお受けしているコンサルタントには、以上で上げたネーミングの制作や文芸作品の語彙などのほか、ことばにまつわる種々のものがあります。最近の例として次のものがありました。

○鉄道自殺を減らす新語はないか(大手鉄道事業社より)

鉄道自殺が発生するたび、鉄道会社は多大な被害を受けているそうですが、「自殺を考える人は真っ先に鉄道自殺を考える」という鉄道研究所の心理調査データがあるようです。

「その原因を作る1つに、駅などで行なうアナウンスに多く使われる「人身事故」という語の普及ぶりがあるようなので、この語に代わる新語を考えてもらいたい」というご相談でした。

当所では考えられる日本語の類義語や主要外国語を調査して音相分析を行いましたが、「人身事故という語が的確な意味と極めて優れた音相をもっているところから、たとえ新語を作っても、日本語からこの語を追放することはほとんど不可能でしょう」というレポートを提出しました。

○電話販売で成果を上げることばは何か?
  (某保険会社からの例 )

電話によるセールス(テレマーケティング)を行っているある大手生命保険会社からのものですが、「取扱者に十分な指導訓練を行っても勧誘成績の高い人と低い人と上がらない人がいる。その原因がことばの音が伝えるイメージにあるのではないかと考えてお尋ねした」とのことでした。

この原因は取扱者の仕事に対する向合い方の違いにあるのではと考えた当所では、人の心性や感性面を捉えるのに有効な「音相基」(注)の使用分布を調べることにしました。

(注) 音相基とは破裂音、有声音、多拍、少拍、濁音など、ことばに表情を作る40種類の表情を作る音の単位をいいます。

成績優良者と、不良者30人づつの実録テープを分析して、そこで使われている音相基を捉えた結果、やはり大きな違いがあるのがわかりました。

即ち成績優良者は、硬いイメージを伝える破裂音系(パ行、タ行、カ行)の音 の入ったことばを多く使い、成績の上がらない人は、ソフト・ムードで穏やかに伝える摩擦音、流音、鼻音などが多いことがわかったのです。

この調査により、音相などに関心のない一般の人たちでも、音が伝えるイメ ージには機敏に反応し、それにより商品への信頼度を高めたり、「保険加入」という大きな決断までしていることが明らかになったのです。

その保険会社ではその後、この調査結果を元に取扱者の訓練や新規採用テスト要綱などを改正されたようでした。

ストック商標の再チェックを!
・・・経費節減で見落としているもの

バブルのころ、各企業では将来発売される商品のため、ネーミングを商標登録する施策が広く行われました。

その種のものがいま企業内でストック商標となって大量に保管され、商標権維持のため特許庁に毎年多額の更新料を支払っています。

商標登録の申請は、化粧品、薬品、衣料品、食品、電気製品、コンピューターなど45の「区分」ごとに行ないますから、無関係と思える区分にも同じ名称で申請するため、45区分の半分くらいの個所に申請する例も少なくありません。

認可をうけた商標は、10年ごとに一区分48,500円の更新料を支払いますから、100語を20区分に登録している会社では、10年ごとに9,700 万円(年平均970万円)の支出となります。

この費用は企業内で問題になりながら、ネーミングの価値を客観的に評価できる理論や技術がなかったため、やむなく支出をしていました。

だがストック商標の中で、将来使用に耐えるものがどれほどあるかが問題です。

当研究所が調査したところでは、保有をしても成果が期待できないものが三分の一以上あることが明らかになっています。

そこでこれら商標の、評価の見直しが必要となるのです。

「当社ではその種の調査は実施済み」とお思いかもしれませんが、真に有効なネーミングとして使えるかどうかを商品コンセプトとの関係で客観的に評価できる技術は「音相解析法」をおいてほかにありません。

未使用商標の実態(推測)とその活用例

この解析法はOnsonicソフトを用いて次の方法で行います。

ストック商標を商品コンセプトごとに分け、個々のコンセプトをコンピューターに記憶させたうえ、そのグループの商標名を入力して1語ごとのコンセプト表現度を数値によって取り出すものです。

分析した結果、その商品に適さないものは他の商品や他事業部へ回してヒット・ネーミングになった例がありますし、社内で利用できないものはそれなりの対価を得て社外へ譲渡することも可能です。

音相理論の集大成書
「日本語の音相」と、「ネーミングの極意」
お分けします。

「日本語の音相」(木通隆行著、小学館スクウェア刊、)および「ネーミングの極意」(同著、筑摩新書刊)はすでに絶版となっていますが、当研究所に余部がありますのでお分けします。本書の内容はこちら

郵便番号、住所、氏名、電話番号、冊数、誌名」をメールでご連絡(こちら)いただけば郵便でお送りします。

頒布価額(送料とも) ・・・ 「日本語の音相」 2,850円
  「ネーミングの極意」 1,000円

【読者の感想】

●詩歌の音楽性を明らかにした画期的快著

日本の伝統的詩歌において不毛だった音楽性の重要さを解明された画期的な研究です。俳句の実作者としても、深く琴線に触れるものがありました。

短歌や俳句の音韻面については、折口信夫の『言語情調論』などはあってもまだ不十分で、「調べ」という曖昧な概念から抜け出ておりません。先生の「音相理論」はそれを闡明されたものと考えます。

「俳句スクエア」代表、五島篁風 (医師)

●音相という素晴らしい世界を知りました

「日本語の音相」、深い感動をもって読みました。

音相を知らずに日本語の鑑賞や評論などできないことをしみじみ知りました。目の覚めるような感動でした。

(富山、日本語研究グループ hirai)

ネーミングの分析・評価を行います