ここに掲載した「批評文」と、あなたが直感されたものとの間にはいくらか違いがあるはずです。
音相分析は「大衆の平均的感性」で捉えたものですが、個人が抱いたイメージにはその人固有の「主観」が入っているからです。
個人限りの主観が入ると、大衆に愛されるヒット・ネーミングは生まれません。
そこにネーミングの成否を決める、別れ道があるのです。
ネーミング批評(1) | 「クユラ」(ボディーソープ・資生堂) ・・・安らぎ感は捉えているが、華やぎの表現がない |
ネーミング批評(2) | 「すてきな奥さん」(主婦と生活社) ・・・意味とイメージの見事な調和 |
ネーミングの極意(1) | 「音相」とは何か ・・・それは平均的日本人が持つことば感覚です |
ネーミングの極意(2) | 「ことばの科学」には限界がある |
ネーミングの極意(3) | リズムの日本語、メロディーの西欧語 |
Q&A ポイント数の算出法は? | |
ネーミングの「分析・評価」を行います。 | |
音相理論の集大成版 「日本語の音相」をお分けします。 |
ここに掲載した「批評文」と、あなたが直感されたものとの間にはいくらか違いがあるはずです。
音相分析は「大衆の平均的感性」で捉えたものですが、個人が抱いたイメージにはその人固有の「主観」が入っているからです。
個人限りの主観が入ると、大衆に愛されるヒット・ネーミングは生まれません。
そこにネーミングの成否を決める、別れ道があるのです。
洗うばかりか、スキンケアもするボディー・ソープ、「クユラ」。
この商品のキャッチ・コピーは「心やすらぐ香り、心華やぐ香り」とでています。
そのようなコンセプトを、ネーミングの音がどの程度捉えているかを見てみようと音相分析をしてみました。
表情解析欄を見ると、「静的・信頼感・暖かさ・優雅さ・高級感」などの表情語が高点で並び、気品や高級感(複雑さ)や安らぎ感を表現した語であることがわかります。
また情緒解析欄にも「情緒的、神秘的、孤高感、クラシック感」などが出ていて、情緒解析欄が表情語を情緒的にフォローしていることがわかります。
だが、今1つの訴求点である「心華やぐ」イメージが表情語のどこにも見られないことが気になります。
ネーミングに華やぎ感を作るには、表情語の「明るさ」「若さ」「躍動感」「都会的」「賑やかさ」「活性感」(I,G,B,H,E,D)などの項に高点が出ていなければなりませんが、分析表を見るとそれらがどれもゼロ・ポイントになっていることです。
この語が捉えた「気品、優雅感、クラシックな落ちつき」の中に、華やいださざめきが僅かでも聞かれたら、この語のイメージはさらに深みのあるものになっていたと思うのです。
それを救うには、イ音や無声化母音を入れるか、無声音の比率がいま少し高ければよかったのですが、それらが有効音相基欄に全く出ていないのです。
表情解析欄を見ると、「爽やか、清らか」を高点でトップにおき、続いて「明るさ」、「高級感」、「健康感」、「穏やかさ」、「軽快感」、「若さ」などを並べて「すてきな奥さん」らしい雰囲気や風情を表現した語であることがわかります。
またこのネーミングの良さは、「明るさ」以下の表情語のポイント数を思い切って低めに抑えていることです。
ポイント数を低く抑えると、表情語がもつ表面的な派手さや単純さが消え、控え目で奥行き感のあるイメージへと変わります。この語の場合はそれが記事の豊かさや知的ムードとなって伝わってくるのです。
このようなイメージは次の音相基から生まれたことを、有効音相基欄が捉えています。
・ | 無声音の多用。(8拍中5拍・・・63% → 標準は47%) | |
・ | 無声化母音の多用。(8拍中3拍・・・39% → 標準は12%) | |
無声化母音とは、母音 i または u の前後に無声音の子音がきた場合、モダンで軽やかなイメージを作る音に変わる母音をいいます。この語では「ス、キ、ク」の母音「u.i.u」がそれに該当します。 | ||
・ | 多拍(8拍)。 | |
8拍以上を多拍といいます。多拍語は存在感や奥行き感を作ります。 |
「桜」という語を辞書で引くと、「野山に自生し、春先薄紅色の花を咲かせる落葉樹、日本の国花」と出ています。
これはこの語の概念、即ち意味を捉えたものですが、そのような意味とは別に、この語からは「明るさ」「爽やかさ」「美しさ」「ほのぼのとした風情」などのイメージも伝えてきます。そのような「イメージ」が、意味だけでは表現できない情緒感や厚みを伝えてくるのです。
意味は文字によって正しく伝わりますが、イメージは「音」から伝わるので、音が伝えるイメージを「音相」と呼んでいます。
イメージは音によって伝わるから、同じ意味のことばでも音が違えば違ったイメージが伝わります。
「ピンク」と「桃色」は意味はどちらも同じですが、「ピンク」という音からは、「明るさ」、「可憐」、「モダンさ」などが伝わるし、「桃色」からは「穏やか」で「優雅」なイメージが伝わります。
そのため、赤ちゃんの頬を言うときは「桃色」よりも「ピンク」という方が、また老人の頬は「ピンク」よりも「桃色」という方が、それぞれの頬の様子がより実感的に伝わるのです。
私たちは、このような微妙なイメージの違いを感覚しながら、日常ことばを選んでいるのです。
このようなことばの音から伝わるイメージは、日本人の誰もが同じような形で持つものです。
ある人が「面白いことば」を思いつくと、それがアッという間に全国へ広がったり、初対面の人と複雑な会話が交わせるのも、お互いの間にことばのニュアンスを聞き分けられる感性の共有があるからです。
紀元前4世紀のころ、へラクレートスというギリシャの哲学者が「RやLの音は、回転または移動を表すことばに多く使われる」と述べた記録があるようですが、このようなことばのイメージについての研究は古くから洋の東西で研究され、現在では言語学の音声象徴という理論の中で扱われています。
だが学問でとらえた理論を使って、前記した「ピンクと桃色」のイメージの違いを具体的なことばを使って解析するなどのことはできません。
そのため学問の分野では、ことばのイメージを捉える場合、感覚的要素の入らない「音節」の単位でしか捉えることができないのです。
音節とは日本語で言えば、「ア、カ、サ、タ、ナ・・・」の50音や、濁音や拗音(キャ、キュ、キョ、ニャ、ニュ、ニョ・・・)など、言語音の単位としてはもっともラフなレベルのものですが、感覚要素を含んだものは、「音相基」という別の単位でしか捉えることができないのです。
音相基とは「ことばに表情を作る音の最小単位」をいい、具体的には
「破裂音が多い。摩擦音が多い。濁音が多い。逆接拍や無声化母音が入っている。有声音が少ない。拍の数が多いまたは少ない・・・」
など、40種類のものがあります。
このような音相基を使って、ことばのイメージを捉えるのが音相分析の手法です。
音相理論が生まれたことで、具体的なことばを使って「イメージ」という複雑、微妙なものが捉えられるようになり、また個人の主観を中心に行なってきたネーミングの制作に種々の科学的な手法が取り入れられるようにもなったのです。
ことばにもリズム、メロディー、ハーモニーがあります。
リズムとは規則正しい音の繰り返しが作るもので、等時的な音の区切りである「拍」(音節)によって生まれるもの。メロディーは音の流れが作るもので、音の明暗、強弱、高低の移ろいから生まれるもの。ハーモニーは声音を構成する要素である調音点音種(音を出す場所)、調音法音種(音を出す方法)、および声道音種(声帯振動の有無)の共時的な響きあいから生まれる和音や和声が作る美をいいます。
われわれは、これらを無意識的に按配しながら会話をし、文章を読み書きしているのです。
ことばの音の美の追い方には言語によって、メロディーに重きをおくものと、リズムを中心におくものがあるようです。
西欧語などメロディーに重きをおく言語では、韻をふむ「押韻」的表現法が発達し、リズムを中心におく日本語では七、五調など「音数律」が発達したと言ってよいようです。
日本語に音数律が生まれたのは、日本語が完全形に近い開音節語(子音の後に母音がくる言語)で拍の存在が明白なうえ、「音を強めるアクセント」(強調アクセント)をもたないところに発生の原点があったといえましょう。
このようなことば感覚の違いから、メロディー中心の西欧語では「ジョンソン・アンド・ジョンソン」(11拍)や「ストラディバリウス」(8拍)のような長拍のネーミングが何の違和感もなく使われていますが、拍を中心とする日本語では、七、五調の和歌や俳句で見られるように7拍が限界で、それ以上の語になると冗漫感が目立ってくるのです。
ことばの分野には画一的な法則はありませんが、日本人が基本にもっていることば感覚には、このような生理的な閾(しきい)があることを心しておかねばならないのです。
日本語音韻と感性の関係などについては、このサイトの姉妹編「日本語の音相」をご参照ください。
Q. | 表情解析欄で出ているポイント数は、どのような算出法から取り出されたものですか。(Y.K) |
A. | 表情解析欄にでているポイント数の数値計算は、分析表末尾にある有効特性欄の右側にある各項に一定のウエイトづけを行なった数値を、表情項目ごとに合計した数です。 その計算には別に行なった統計調査で得た公式を用いますが、この部分は高度なノーハウでもあり公表は控えさせていただいております。 |
音相システム研究所では、「ネーミング批評」欄に出ているようなネーミングの分析と評価を行なっています。
分析評価の種類には次のものがあります。
(1) 個別評価 ・・・ | このサイトの「ネーミング批評」欄にあるような、1語ごとの細密分析と、それが生まれた根拠の解明や対応策などについて述べるもの。 |
(2) 総合評価 ・・・ | 大量のネーミング案から優良案を短時間で取り出すもの。その商品等のコンセプトをコンピューターに入力し、それに大量案を入力して個々の案のコンセプト達成率を捉えたうえ、高点にある少数案を前記(1)の「個別評価」によって細密分析して優良作を提案するものです。 |
(1) 個別評価(本評価) | ||
1語(1分析) | 30,000円 |
(2) ラフ評価 | |||
・ラフ分析料 | 50語まで | 1語 | 2,000円 |
100語まで | 1語 | 1,800円 | |
1,000語まで | 1語 | 1,200円 | |
1,000語以上 | 1語 | 800円 | |
・コンセプト調整費 | 70,000円 | ||
・本評価料 | 1語 | 30,000円 |
(注) | 「ラフ評価」は総語数20語以上で、本評価語数5語以上の場合に行ないます。 |
「日本語の音相」(木通隆行著、小学館スクウェア刊、)はすでに絶版になっていますが、当研究所に余部があるのでご希望の方へお分けします。
本書の内容はこちら
郵便番号、住所、氏名、電話番号、冊数、配達希望時間などを研究所
(こちら)にご連絡いただけば郵便小包(料金は郵便振替払い)でお送りします。(定価2.850円)
【読者の感想】
●詩歌の音楽性を明らかにした画期的快著
日本の伝統的詩歌において不毛だった音楽性の重要さを解明された画期的な研究です。俳句の実作者としても、深く琴線に触れるものがありました。
短歌や俳句の音韻面については、折口信夫の『言語情調論』などはあってもまだ不十分で、「調べ」という曖昧な概念から抜け出ておりません。先生の「音相理論」はそれを闡明されたものと考えます。
「俳句スクエア」代表、五島篁風 (医師)
●音相という素晴らしい世界を知りました
「日本語の音相」、深い感動をもって読みました。
音相を知らずに日本語の鑑賞や評論などできないことをしみじみ知りました。目の覚めるような感動でした。
(富山、日本語研究グループ hirai)