これまでの記事・全掲載


2008年7月の記事一覧

ネーミング批評(1) JR(ジェーアール)を分析する
…公共意識や庶民性が聞こえない
ネーミング批評(2) 「タント」(ダイハツ車)
コンセプトを捉えてはいるが・・・
  ネーミングの「分析・評価」を行います
ネーミングの極意 「ネーミングの麻痺現象」に気をつけよう
…批判をされなくなったネーミングは要注意
  逆接拍が作る不思議な世界
…日本語の奥の深さが見えてくる

≪ネーミング批評(1)≫ 

JR(ジェーアール)を分析する
・・・公共意識や庶民性が聞こえない

このようなアルファベット(記号)を組み合わせたネーミングでも、記号には音があるから普通のことばと同様、表情や情緒を伝えます。

「ジェーアール」という音がどんなイメージを伝えるか、音相分析してみました。

画像をクリックすると拡大します
JR

表情解析欄を見ると、高尚優美なイメージを作る表情語、「高級感」(R)、[安定感](Q)、[暖かさ](P)、[優雅さ](S)が並び、それらを裏付けるように「情緒解析欄」には「長期的」「穏やかさ」「夢幻的」「大らかさ」などの情緒語が出ていて、気品や安定感をハイレベルで表現した語であることがわかります。

だが、公共的な事業名の場合、情的なアピールよりも大衆性(庶民性)や公共意識や未来志向のムードなどを優先して表現すべきではないかと思います。それらを表現するには、表情語の

「躍動感」(B)、「新鮮さ」(C)、「活性感」(D)、「個性的」(K)、
「強さ」(L)、「庶民性」(M)

が高点でなければなりませんが、この語ではこれらがすべてゼロ・ポイントになっています。

企業の実態からうけるイメージと、音が伝えるイメージの間にこのようなズレのある語は、伝わるイメージが不明瞭で、人の心を捉えないネーミングになってしまうのです。

このような音相が生まれた原因として「有効音相基欄」では次のものを上げています。

有声音が多いこと ・・・ 通常の語の場合、拍数対比で53%が標準ですが、この語はすべての音(100%)が有声音です。有声音が多いと語全体に安定感や優雅さが生まれますが、同時に活性の低さや、暗いイメージも伝えます。
調音種比が低いこと ・・・ 喉頭音や破裂音などを調音種といますが、調音種の種類が少ないと活性感の低さや片よりのあるイメージを作ります。調音種の種類の数は、5拍語の場合は4音種が標準ですが、この語の場合は3音種しかありません。
逆接拍が多いこと ・・・ 逆接拍とは、子音と母音の明るさが+と-の反対方向を向く拍(音節)をいいます。標準は拍数対比で23%ですが、この語では2拍(ジェとル)あって40%を占めています。

≪ネーミング批評(2)≫ 

「タント」(ダイハツ車)
コンセプトを捉えてはいるが・・・

画像をクリックすると拡大します
タント

新しいタイプの軽自動車。「幸せ家族の“感動空間”」がこのクルマの売りことばです。

分析表をみると「動的」(D)、「適応性」(M)、「暖かさ」(P)「現代的」(H)、「合理的」(J)、「溌剌さ」(G)、「賑やかさ」(E)など、このクルマのコンセプトを表現するのにふさわしい表情語が上位に並び、コンセプトバリュー欄でも男女を問わず若者やジュニア層が好む雰囲気の語であることを示していて、優れたネーミングといえましょう。

だがあえて付言をすれば、ファミリー車でも、ある程度「座敷」のムードが必要ですが、それを表す「高級感」(R)、「非活性感」(T)、「優雅さ」(S)のポイント数が低いためクルマらしい奥行感がやや足りないのです。

それを満たすには、「有効音相基欄」に出ている、「プラス高輝性」または「少拍」のどちらかをなくす工夫が必要です。

プラス高輝性 ・・・ 音の明るさ(B値)が高いと奥行き感や優雅さは減少します。高輝性の標準値は3拍語の場合+0.6ですが、この語は+1.7と高ポイントがでています。
少拍 ・・・ 音(拍)の数が少ない語のこと。少拍の語は軽便間や若さや淡白感を助長します。

ネーミングの「分析・評価」を行います。

音相システム研究所では、以上で行ったようなネーミングの「分析と評価」を、ご依頼によって行なっています。

分析評価には次の種類があります。

(1)個別評価 ・・・ 前記したような、1語ごとの細密分析を行なうもの。
(2)総合評価 ・・・ 懸賞募集などで集めた大量のネーミング案から優良案を短時間に、低額で取り出すもの。
(商品名で表現したいコンセプトをクライアントからいただいてコンピューターに入力し、大量案を入力して個々の語のコンセプト達成度を捉えたうえ、高点にある少数個を前記(1)で「個別評価」して最終案を決めるもの。)

音相分析と評価の料金表

(1) 個別評価の料金  (本評価料…1語ごとに本評価を行なうもの)
  1語(1分析) 30,000円
(2) 総合評価の料金  (ラフ評価と本評価を組み合わせたもの)
・ラフ分析料 50語まで 1語 2,000円
  100語まで 1語 1,800円
  1,000語まで 1語 1,200円
  1,000語以上 1語 800円
・コンセプト調整費     70,000円
・本評価料   1語 30,000円

(注)「総合評価」は総語数20語以上、本評価語数5語以上の場合にお受けします。

「ネーミングの麻痺現象」に気をつけよう
・・・批判をされなくなったネーミングは要注意

あるネーミングに初めて接したとき、何となくギコチなさを感じても、聞きなれてゆくにつれ、気にならなくなることがよくあります。

この現象を、音相論では「音の麻痺現象」と呼んでいます。

20年前、「平成」という元号が発表になった時、新聞各社が町の声をきましたが、「感じが良くない」、「明るさがない」、「平凡」、「未来期待感がない」、「新時代への意欲を感じない」などがほとんどで、「良い」と答えた人はほとんどいませんでした。

この語の音相を分析したら、「穏やかではあるが、暖かさや活力感に欠ける語」という評価が出、その原因として「へーせー」の4音のすべてが排他的な感じをつくる「エ」音であることと、子音(h、s)も穏やかだがインパクトの弱い摩擦音ばかりだからだと出ていました。

そのとき私は、咄嗟の質問に即座に「ノー」と答えた街の人たちの感性の高さに感心したのですが、同じ新聞社が3カ月後に行なった同じ内容の調査では、前回とはまったく反対に「感じがよい」、「明るい」、「使いやすい」などがほとんどで、「良くない」はほとんどありませんでした。

ことばはこのように、始めの第一印象が悪くても、使い馴れてゆくうちに「あまり悪くない」から「良い」にまで変わってゆく傾向があるのです。

その現象は、元号や地名など日常高い頻度で使われることばほど早い段階で現われます。

ネーミングにそんな現象があるのなら、発表当時の不人気など気にすることはないという見方もできますが、麻痺をするのは表面だけで、初めに感じた第一印象はいつまでも人々の潜在意識の奥に居座って、第一印象のままのかたちで作用し続けるものなのです。

このことは、平成を冠する社名が東証第一部上場企業の中に1社もないのを見てもわかります。

東京株式市場の一部上場企業の中で、元号名を冠した社は「明治」5、「大正」3、「昭和」15社ありますが、会社の創立、合併、改称がとりわけ多かったこの20年間に、「平成」を冠する社名が1社もないのを見ても、この語が発表されたあの日に人々が抱いた第一印象が今も大きく働いていることがわかるのです。

やや旧聞になりますが、レナウンという会社が「フレッシュ・ライフ」という防臭抗菌ソックスを売り出しました。品質が良いにもかかわらず何年たっても業績がはかばかしくないので、名前を「通勤快足」と改称したとたん、売上が9倍に伸びたという例がありました。

「フレッシュ・ライフ」を音相分析すると、摩擦音と流音ばかりでできているため「明白な表情をもたない、印象不鮮明な語」であることがわかりますが、「通勤快足」は無声破裂音や破擦音を多用して「若さ、活力感、新鮮さ、明るさ」を表わす、目の覚めるような音相の語であることがわかります。

このことからふり返ると、「フレッシュ・ライフ」は良くないネーミングなのに麻痺現象のお陰で批判もされずに長年居座っていただけで、その間会社に莫大な不利益をあたえていたことがわかるのです。

注意しなければならないことは、質の良くないネーミングが「麻痺現象」のおかげで批判されないでいるものを、ネーミングが良いから批判されないと勘違いすることです。

特別良さは感じないが批判もされないというネーミングは、正しい分析を行って、裸の価値を見てみる必要があるのです。

≪ネーミングの極意・シリーズ≫ 

逆接拍が作る不思議な世界
・・・日本語の奥の深さが見えてくる

ピアノのキ-を、1オクターブ変えて2本の指で同時に打つと割合単純な音が聞こえますが、「ドとミ」のようにキーを変えて同時に打つと、複雑で奥行のある音が出ます。

この現象をことばのイメージ解析の手法に取り入れたのが順接拍と逆接拍の理論です。

順接拍とは子音と母音の明るさ(Bの値)が「+Bと+B」、「-Bと-B」のように同じ方向をむく拍(音節)をいい、(注:+Bは明るさ、-Bは暗さを示します)、「+Bと-B」のように反対方向を向くものを逆接拍といいますが、逆接拍は順接拍より奥ゆきや深みのある表情を作ります。

このことを「金」と「銀」という語の、「キ」と「ギ」の違いでみてみましょう。

次のように、「キン」の「キ」は子音と母音が+と+の同方向を向く順接拍、「ギン」の「ギ」は-と+を向く逆接拍です。

キ・・・・・・k(+B1.3 H1.3) + i (+B1.0 H1.0)・・・・・・順接拍
ギ・・・・・・g (-B2.0 H1.0) + i (+B1.0 H1.0)・・・・・・逆接拍

順接構成の「キン(金)」は「金満家、金歯、成金,金ピカ」のように表面だけを装ったようなネガティブな意味のことばにもよく使われますが、金の50分の1の価値しかない「ギン(銀)」は逆接構成のため、「いぶし銀、銀座、銀の鈴、銀馬車、銀ぎつね、銀河」など内面的な美しさや奥行き感をもつ語に多く使われ、ネガティブな意味の語には見られません。

順接拍と逆接拍がもつこのようなイメージを生かしたことばは数多くありま すが、思いつくものを上げてみました。逆接拍の入った語の方が複雑さや内面性を表現した語であることがわかります。

(順接拍構成語を「 」、逆接拍構成語を『 』で示します)。

「奇麗」と『美しい』
「朝日」と『夕陽』
「豚」と『真珠』
「キラキラ」と『ギラギラ』
「ころころ」と『ごろごろ』
「青い海」と『ブル-の海』
「踊り」と『舞踊』
「犬」と『猫』
「狸」と『狐』
「単純」と『複雑』
「天使」と『悪魔』
・・・

また秋の草むらにすだく虫の名で、逆接拍の入ったものには『まつむし、すずむし、こおろぎ、きりぎりす、くつわむし』があり、順接拍だけのものには「うまおい、かねたたき、かんたん」などがありますが、古くから詩歌などに出てくる虫は、逆接構成の虫の名ばかりで、美しい音色を持ちながら順接構成の虫はほとんどありません。

日本人は遠い昔から、秋の哀れをさそう虫の名には逆接拍の方がふさわしいという高度な音相感覚をもっていたことがわかるのです。

ネーミングの分析・評価を行います