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●「マクドナルド」、「モスバーガー」と
新参入「バーガーキング」の人気度は・・・・
「マクドナルド」を頂点に「モスバーガー」以下へと続くハンバーガーの業界に、新しく「バーガーキング」が参入したことが世間の話題になっているようです。
この業界の行く末を覗(のぞ)いてみようと、3語の音相分析を試みました。
まず「マクドナルド」と、「モスバーガー」の比較から。
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「マクドナルド」・・・表情解析欄の冒頭に、高級感や優雅さを作る薄青色の表情語が、次のように並んでいます。
・「非活性的 ・「高級感」 ・「安定感」 ・「暖かさ」 ・「高尚さ」
これらから、この語が上品で優雅な雰囲気をもった名前であることがわかります。
「モスバーガー」・・・この語もまた、薄青色の表情語が高点で並び、前者とよく似た雰囲気をもっている語であるのがわかりますが、この語には「マクドナルド」がその下位で持つ「若さ」や「活力感」を作る濃青色の表情語がありません。
そのためバーガー店に見られる庶民的なムードより、高尚さや気品のある高級レストランの感じになっていて、バーガー店の雰囲気とはやや異なります。
濃青色の表情語がわずかにあるかないかで、人々の店へのイメージはこんなに違ってくるのです。
「バーガーキング」・・・「庶民的」を表情語のトップに置いたうえ、次のような濃、淡さまざまな表情語を取り入れて、バーガー店らしいイメージを作る音を正しく捉えた語であることがわかります。それは家庭で、屈託のないさざめきの空間といってもよいでしょう。
濃い青色・・・「高級感」 ・静的」 ・「信頼感)」
淡い青色・・・「シンプル感」 ・「活性感」 ・「軽快感」・「躍動感」 ・「賑やかさ」
また、ポイント数の最高点を50に抑えて全体の表情語を圧縮しているため、全体から深みや奥行きが感じられることばになっています。
だがこの語には大きな課題があるようです。
前号(7月①号)で、「マクドナルド」という長拍の語を嫌い、「マック」や「マクド」という俗語で呼ばれている話しをしましたが、「デパートの地下」を「デパチカ」、「セントラル・リーグ」を「セ・リーグ」というように、現代人は1音でも音の数の少ない語を好む傾向が強いのです。
音の数が少なくなればなるほど、その語のイメージは強いインパクトで伝わってゆくからです。
新規に参入した「バーガーキング」は、正式名称では他より優れたものといえますが、3拍にまで短縮された「マック」や「マクド」と太刀打ちするには、不利を覚悟しなければなりません。
この7拍語から、「マック」、「マクド」のような少拍の俗称をいかにして作り出すかで、店の人気は決まるように思うのです。
このことは、「モスバーガー」についても同じこ止が言えるようです。
●むずかしい「ネガティブ語」の評価
・・・表情語は下からも読め
分析表を見ていて、「当たっていない」と思うことが時々おありと思います。
長年、音の分析評価をしてきた私でも、一見そんな思いをすることがよくありますが、ほとんど例外なく、それが評価の仕方を間違いによる場合が多いのです。
分析表を評価するには、評価の技術をマスターしていなければなりませんが、評価法はことばの種類や前後の関係などでいろいろ違いがあるため、それを説明するには長い時間がかかります。
そこでここでは、誤った評価をしがちな「ネガティブ」語の評価法を述べてみたいと思います。
音相論では否定的な意味をもつ語をネガティブ語、肯定的、受容的な意味のことばをポジティブ語と呼んでいます。
「表情解析欄」にある表情語は、「明るさ」、「清らかさ」、「活性的」、「健康的」などポジティブなことばばかりでできていますが、これらの語の裏側にはそれと反対の意味をもつ多くのネガティブ語が隠されているのです。
表情語からネガティブ語を除いた理由は、分析したことばの中に否定的な意味の語が1つでもあると、そういう語が持つ刺戟の強さに目が行って、語全体を偏った見方で捉えてしまうことが少なくないからです。
そういう理由で、分析表ではネガティブな意味のことばをポジティブな表情語で表現するため、「当たっていない」と見てしまうのです。
そこでネガティブ語の場合は、特殊な評価法が必要となります。
それを「じこちゅう」(自己中)という語を例に述べてみましょう。
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表情語の上位を見ると「爽やか、安定感、高級感、暖かさ」など、この語には関係ないと思える表情語が雑然と並び、この語のまとまったイメージを取り出すことはできません。
だが表情語の下位の方(分析表のゼロポイントの付近)を見ると、「適応性、賑やかさ、新鮮さ、進歩性、健康的」などがゼロまたはごく低ポイントででています。
このことはこの語には「適応性がない」、「賑やかさがない」、「進歩性がない・・・」などを示していていて、「自己中」という語のイメージを捉えるのがはっきりわかるのです。
ネガティブ語に限らず、表情語を上から見てイメージの捉えられない語は、このように下から見ると案外たやすく捉えられる場合が多いのです。
●口の端に自然に上るようなことばを考えよう
10年ほど前、家の近くの「野比」という私鉄の駅が「YRP野比」と改称されました。
YRPとは「横須賀リサーチパーク」の頭文字をとった大手通信会社の研究所村のことですが、全国でも駅名にローマ字を使った例は始めてだと、そのナウさがいっとき評判にもなりました。
だが地元の人たちは、今でも駅名に「YRP」をつけて言う人を見かけません。
その理由を考えると、次の3つがあるようです。
① 『のび』という印象鮮明な2拍語が、「ワイアールピーのび」と9拍になったため、現代人が嫌う「締まりのないことば」になったこと。
② 「ワイアー」(waiaa)で、母音(有声音)が5音も連続するため言いにくくなったこと。
③ 「YRP」が、何のイメージ(表情)も持たない音のため、ナウさばかりを追いかけていたバブル時代の軽薄さをこの語に感じてしまうこと。
以上のことを裏返して言うと、「口に出して言ってみたくなる」ようなネーミングは、それだけで成功したネーミングといえるようです。
現在でも人気の高い古寺の名や、優れた音相をもつ外国のブランド名のように、人々の会話に彩りを添え、進んで口にしたくなることばは、企業が営利目的で作った商品名でも、その国のことば文化への仲間入りができるのです。
そんな想いで、ネーミング作りはして見たいと思います。
ついでに、日本人が「なるべくなら口にしたくない」と思っていることばをあげてみました。
◎ 口に出して言いたくないことば
ティー (紅茶)
リップ・スティック(口紅)
ビッグエッグ(東京ドームの愛称)
DIY(日曜大工)
WOWOW(放送局)
マイスターシュテュック(万年筆)
デユオ(乳酸飲料)
ヴィックスヴェポラッブ(風邪薬)
ヘクトパスカル(気象用語)
ナタデココ(食品)
ベースボール(野球)
インターディスィプリナリ(学際)
フイッシング(釣り)
ウオーター(水)
エグジット (出口)
ソサエティ (学会)………
これらがなぜ「口にしたくないことば」なのか、その理由は改めてお話したいと思います
●「富士山」と「フジヤマ」
・・・音相分析が捉えたイメージの違い
富士山のことを日本人は「ふじさん」、西欧人は「フジヤマ」と言いますが、この呼び方の違いから、日本人と西欧人がこの山にどんなイメージの違いをもっているかを比べてみようと、音相分析をしてみました。
このような違いを見るには、分析表の情緒語を比較するのが有効です。
下表の○印は、ポイント数が高い項、◎印はとりわけそれが高い項、-印はその表現のないものを示します。
またポイント数がどちらもゼロの項(11項)は掲載を省略しました。
「富士山とフジヤマ」の表情比較
情緒語 富士山 フジヤマ
情緒的 ◎ 〇
爽やかさ 〇 -
夢幻的 ◎ 〇
孤高感 〇 -
鄙びた感じ 〇 〇
クラシックな感じ 〇 〇
エキゾティックな感じ 〇 ◎
神秘性 〇 〇
どちらの語も「情緒的、夢幻的、神秘的、鄙びた感じ、クラシック、エキゾティック、神秘的」を捉えていますが、この山に身近かに接している日本人はさらに「爽やかさ、孤高感、情緒性、無限性」を感じ、実感をほとんど持たない西欧人は「エキゾティシズム」を強く感じているなど、この山への微妙なイメージの違いを音相分析が正しく捉えているのがわかります。
また山岳に対して抱く荘厳冠や畏敬の思いは、どの民族でも同じであることがこの分析からわかるのですが、古いやまとことばを対象に作ったこの音相解析法が、外国人のことば感覚にも通用していることの不思議さを私は強く感じるのです。
● Q&A 音相論はなぜやまとことばで捉えたのか
Q.音相理論が理論構築をする際に使われた調査対象語は、「やまとことば」だったようですが、現代語を使わなかった理由をお教えください。(東京・世田谷、ss.ranc)
A.理論を組み立てる初期の段階で悩んだことは、日本人の誰もが共通的に持っていることば感覚を、私個人の主観を入れずに捉えるにはどんな方法をとったらよいかということでした。
考えられる方法として世論調査がありますが、現代人だけの調査となるため、日本語の歴史にひそんでいる本源的なものを捉えることはできません。
そこで私は、現代語の中で多く使われている「やまとことば」(和語)の存在に着目しました。
やまとことばは文字を持たない昔からこの国で使われてきたことばですが、単語を単位に現代語を調べると、日常語の80%前後が和語系の語であることに気づきました。
このことから、現用されている和語は、太古以来何百億かの人たちによって音相的な価値評価をうけ、厳しい選択をパスして生き残ってきたことばだから、日本人のことば感覚をこれほど狂いなく捉えたことばはないと考えたからでした。