9月の記事一覧
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9月の記事
秋篠宮家第3子のご命名にあたり、ご夫妻殿下はとりわけ音の良さが気にいられ『ひさひと』に決められたと報道されていました。
「音の良さ」は感覚的なものですから、それをことばで説明するのは難しいですが、音相理論で分析すると、どの程度良いのか、なぜ良いのかが、日常的なことばを使って説明できるのです。
恐れ多いことながら、「ひさひと」という名前の音が人々にどんなイメージを伝えるかを分析してみました。
表情解析欄のトップの部分に「清らか、爽やか、清潔感、健康的、明るさ、開放的」などがあり、情緒解析欄では「クラシック、神秘的、純粋、高級感、大らかさ」などを捉えていて、高貴な方のお名前に相応しい音を豊かに持つお名前であることを示しています。
また、そのようなイメージが生まれた根拠として、「有効特性欄」(ここでは省略します)では次の項を上げています。
・ 「イ音が多いこと」・・・4音中「ひ、ひ」が2音 (50%)ある。
・ 「無声摩擦音系の音が多いこと」・・・「ひ、さ、ひ」の3音(75%)で無声摩擦音を使っている。
・「無声化母音が多いこと」・・・4音中「ひ、ひ」の2音(50%)が無声化母音である。
非のうち所のないステキなお名前。重ねがさねお喜びを申し上げます。
(注)無声化母音とは
母音はすべて声帯を振動させて出す有声音ですが、母音イまたはウが無声音の子音の間に入ったとき、それらの母音は息だけが出て声が出ない母音となります。そういう母音を無声化母音といいます。
「グットバイ」ということばを聞くと、やや年配の人は昭和23年、玉川上水で入水心中した小説家・太宰治の同じ題名の遺作を思い出されることでしょう。
この小説は、朝日新聞に連載し始めて10回目で終わってしまった、作品ともいえないものですが、太宰文学の評論などでは必ず話題に上る題名です。
未完成作品の題名がこれほど後世で話題になるのは、「執筆中の心中」という事件性だけでないように思えた私は、この題名の音相を分析してみました。
表情解析欄からは
庶民的 100.0p
活性的、動的 60.0p
シンプル 50.0p
派手 50.0p
高級、充実 50.0p
軽快感 40.9p
清潔感 36.4p
静的 30.0p
安定感 27.3p;
高尚、優雅 18.2p
新奇さ 23.1p
があり、また「情緒欄」には「純粋性」の高さなど、太宰個有の心性とロマンティシズムと軽く淋しいいユーモア感を表現するにふさわしい表情語でできた題名であることがわかります。
これがもし「さようなら」だったらどうでしょうか。
ついでに、「さようなら」を分析してみたら、表情解析欄の上位に次のことばが並びました。
暖か、安らぎ 27.3p
非活性的、静的 15.0p
軽やか 13.6p
安定感、信頼感 13.6p
優雅感 9.1p
別離の思いを表現した表情語がそろっていますし、それらを包むオーラとして「表情解析欄」に「哀感、情緒的、クラシック感、夢幻的、さびしさ」などがあり、これまたまことに優れた音相をもつ語であることがわかりますが、「グッドバイ」に見られるようなユーモア感はありません。
ユーモア感は「高級、優雅、軽快感、派手さ」の響合いから生まれるものなのです。
太宰について語るとき「グッドバイ」という語が自然に出てくるのは、人々がこのような眼にはみえないつながりをそこに感じているからではないでしょうか。
私はそこに、「音相」という不思議な世界の存在を見るのです。
音相論では、ことばの中に含まれているすべての表情を40の表情語で表現しますから、1つ1つの表情語はその周辺に存在している幅広い類似の概念を括ったことばだという理解が必要です。
たとえばA群の表情語「シンプルな、明白さ」には、一般で使われている「シンプル、明白」という意味のほかに、その周辺にある「すっきりした」「単純な」「一途な」「簡単な」「あっさりした」「清々しい」「はっきりした」などの表情も含んだことばとして、「表情語」は読まねばならないのです。
その意味で、私は表情語のことを音相理論においてのみ通じる言語、「音相言語」と呼んでいます。
そのため、ことばの分析、評価を行うときは、分析表にでている表情語をそのまま使わず、語がもつ雰囲気や前後の環境などにふさわしいことばを使って表現をしてよいのです。
第二次大戦以後、わが国で広く使われるようになった外国語の音韻を、それまでの音韻と区別して音相論では「新子音」と呼んでいます。
新子音にはヴァ行音、フを除くファ行音、ティ、トゥ、 ディ、ドゥ音とこれらの拗音を言います。
その昔、漢語の音韻とともに特殊音素(長音、促音、撥音)や拗音が入ってきて、それまでの「やまとことば」中心の日本語の音韻に大きな広がりが生まれました。
その後、外国語の音韻の影響はほとんど受けることはなかったのですが、第二次大戦後、前記した新子音が日本語の音韻に再び大きな影響をもたらすこととなったのです。
特殊音素や拗音などは使われ初めて以後千五百年にもなりますが、今でも日本語の音韻としては十分馴染まれておらず、「美しい日本語」の中では極力敬遠され、キザなことば、軽薄なことば、下品なことばに多く使われています。
そういうことを思うとき、近年に入ってきた新子音を、誰もが「チーム」を「ティーム」、「デジタル」を「ディジタル」のように外来音のまま自然に発音するようになるまでには、相当長い年月を要するのではないかと思います。
しかしながら、新子音は使われはじめて日が浅いだけに、モダンさや異国的なイメージが伝わりますし、その反面でよそよそしさや派手さなども作りますが、口腔周辺の筋肉を使う習慣がほとんどない日本人には、「言いにくさ」や「聞きにくさ」を感じる音でもあることも忘れてはならないのです。
そういう語は、次のどれかに該当すると考えてください。
1 反対方向の表情語が対立する場合
陽と陰、強さと弱さ、静的と動的など反対方向を向く表情語が互いに高点で対立しているときに起こります。
大勢の人が自分勝手に大声で意見を言えば、聞く人にはただ騒々しいだけで意味もイメージも伝わってこないのと同よう、反対の表情を持つ語が高ポイントで数多く対立すると、コンピューターはまとまったイメージの方向性が捉えられなくなるのです。
そういうことばは、複雑な意味をもったことばともいえるのです。前号、9月@で取り上げた、「チデジ」や「悪魔」などがその例です。
A あいまいさを意味にもつ語
曖昧さを意味している語や、不明瞭な状態を表すすことばには、分
析をしても表情の捉えられない語が多いのです。
それは、音相分析がその語のイメージを正しく捉えていることを示すものです。
(例、まぼろし、幽霊、ふらふら、ぶらぶら、ほのぼの・・・)
3 音相的配慮をせずに作ったことば。
意味や、文字だけを考えて作ったことばは、音相的な配慮が
ないから、表情の捉えられない語が当然多くなります。
法律用語、学術用語や市町村合併などで、いくつかの地名の頭文字
を集めた都市名などに多く見られます。
(例)鎮魂歌、キャバクラ、ボキャ貧、激辛・大田区(旧大森区+旧蒲田区)、更埴市(更級郡+埴科郡)・・・
駒大苫小牧の田中将大選手と競り合って優勝し、一夜にして全国の人気者になった早稲田実業の斉藤佑樹君。
そのあまりの人気ぶりの奥にあるものをさぐってみようと、名前の音相を分析してみました。
表情解析欄のトップで
静かさ、穏やかさ 30.0p
安定感、落ち着き 27.3p
信頼感、存在感 27,3p
高級感、充実感 25.0p
優雅さ、高尚さ 18,2p
など、この人が基本に持っている「高尚、優雅」なムードを表現していますが、表情解析欄の最高ポイントが30.0と低めたため、軽さや派手さを抑え、怜悧で奥ゆきのある内面性が見られます。
またそんな雰囲気とは裏腹に
強さ、鋭さ 25.0p
個性的、特殊感 21.4p
溌剌さ、若さ 12.5p
など、スポーツマン的な要素も高く表現され、情緒欄でも「スポーティー、スピード感」の項が85.7pと突出しています。
テレビなどからうけたイメージと寸分たがわぬこの分析表から、人の性格と名前の音相の不思議な関係を考えずにはおれません。
最近テレビで「これまでのテレビが、近く『チデジ』に替わります。」ということばがよく聞かれます。
「チデジ」とは、「地上デジタル放送」の略語ですが、この語の音の響きの悪さが気になるので、音相分析でその原因を調べてみました。
表情解析欄の上位の部分を見てゆくと、次のように「静と動」「硬と軟」「明と暗」など、反対方向を向く表情語が高ポイントで並んでいるのがわかります。
個性的(64.3p) と 適応性(50.0p)
現実的(60.0p) と 優雅さ(45.5p)
シンプル(50.0p) と 高級感(50.0p)
シンプル(50.0p) と 非活性的(45.0p)
若さ(50.0p) と 非活性的(45.0p)
強さ(50.0p) と 非活性的(45.0p)
強さ(50.0p) と 安らぎ(68.2p)
・・・・・・・・・
これらが互いに反発し合うため、騒々しいばかりでまとまった表情が見られないことばになっているのがわかります。
この語は、「デパチカ」、「パソコン」などとよう、意味を持つ2つの語をつなぎ合わせたもので、意味中心で考えられ、音への配慮がほとんどないことばですから、そういうことばを分析しても、この語のように明白な表情が出てこないものが多いのです。
またこの語のいま1つの欠点は、注意事項欄にあるように「難音感」をもっていることです。
難音感とは、言いにくさや、聞きにくさをいいますから、ネーミングとしてはなるべく避けたいことばです。
難音感が生まれるには、同じ調音種が3つ以上連続するときなど、9つのパターンがありますが、この語の場合は「で、じ」と濁音が連続したために起こったものです。
(難音語については、小著「日本語の音相」(小学館スクウェア社刊)の255ページをご参照ください)
[チデジ]は何のイメージも伝えてこないばかりでなく、聞き苦しさや不快感を抱くことばであることがわかるのです。
「青い海」ということばからは輝くような原色の青色がイメ−ジできますが、「ブルーの海」ということばからは、赤や緑など種々の色が少量づつ混じった複雑な青の色を感じます。
また、「ア」という音は穏やかな音、濁音は暗い音などと言われるように、ことばは意味のほかにイメ−ジを伝える働きもしています。
ことばが伝えるイメージは、音によって伝わるのでこれを「音相」と呼んでいます。音相は日本人の誰もが同じように感じている感性ですが、音が伝えるイメージと、イメージを作る音の構造の関係を科学的な根拠によって明らかにしたのが「音相理論」です。
ことばの音を解明する学問には音声学や心理学、音韻論などがありますが、その内容はすべて抽象論の段階に留まっていて、1つ1つのことばが持つイメ−ジを平易なことばで具体的に解き明かしたのは音相理論をおいてほかにありません。
音相論を知ることで、ことばの音の良し悪しについて明白な評価ができるようになりますし、ネーミングを行う場合、たくさんのネーミング案の中から商品コンセプトに適合下優れた案を瞬時に選び出すことのできるのです。
また、文芸作品や作家の内面を、音の面から取り出すこもできるようになりました。
コンピューターがどんなに発達しても、新しいことばを作りだすことはできません。
ことばを作るには、人間な経験や空想力や直感が背景にあって初めて生まれるものなのです。
過去に、コンピューターでネーミングを作ろうとした人がいましたが、成功しませんでした。
その理由は、大変な作業を人が新たに行うことになるからです。
ネーミングとして一番多い5音のことば(例えば「アリナミン」)を作る場合で考えてみましょう。
5つの音を組み合わせたことばをコンピューターから取り出すと、100億語という膨大なことばが出てるくるのです。
日本語で使われている音節には「あいうえお」などの五十音のほか、濁音、半濁音、拗音など138の音節(拍)がありますが、これを単純に100と計算しても5音の場合は100の5乗となりますから100億語になるのです。
その中から日本語の音用慣習などを考えながら使えることばを選ばなければなりませんが、その作業は人の手作業になってしまいます。 それを毎日1000語を行ったとしても、1人で作業をすれば330年もかかってしまうのです。
「ことばやネーミングの素案を作る仕事」は、人間がその感性をフルに使って生み出す以外に方法がないのです。
この理論がなぜ日本語からしか生まれなかったのか。
それには次の3つの理由があげられます。
(1)日本語が、外国語の影響をほとんど受けていない純粋度の高い言語であったこと
日本語は外国語の影響をたいへん多くうけたことばのように思われがちですが、実際に影響をうけたのは「単語」の部分に限られて、言語の基本である「言葉の順序(統辞構造)」「文法」「音韻」などは、全く影響を受けておりません。
そのため、日本人のあいだで共通の「ことば感覚」が幅広く醸成されているのです。
(2)日本語が整然とした体系をもつ言語であったこと。
日本語は、敬語など一部に例外もありますが、言語の仕組みや構造などが一定のルールや秩序でできていることです。
(3)日本語の音節(拍)が手ごろな数であったこと。
日本語の音節には、前記したように138がありますが、その数が手頃であったため、イメージの把握が容易だったことがあげられます。
西欧語の音節(Syllable)には一定の分類法がないため、英語の場合で見てみても「Spring」という語は何音節かの勘定も人によってまちまちで、音節の総数も学者によって1.800個、3.000個、10.000以上などいろいろな説があるようです。
音節数が1800以上にもなると、脳が行なうイメージ(表情)の識別が曖昧になるし、同じイメージを作る音節が100以上あるものがいくらもできるため音節を単位に明白な表情を捉えることができなくなります。
以上の理由から、音相論は日本語ではじめて実施できた理論といえるのです。