音相マガジン

8月の記事

2006年08月01日
●新公式サイト[ネーミングはこれを知らずに作れない]がスタートします。

このサイト「日本語の音相」は、あることばがどんなイメージを人に伝えるか、その根拠は何かなどを明らかにするコーナーですが、これと並行して8月から新たに「企業に必要な音相知識や技術」をお知らせする公式サイト「ネーミングはこれを知らずに作れない」をオープンしました。

内容は、ネーミングの制作に必要な知識や分析法、注意事項などのほか、商標管理や、ブランド戦術などを幅広く捉えてゆくものです。

どうぞご期待ください。ネーミングに関係する記事は、当サイト「日本語の音相」でも扱いますので、内容によっては重複があることをお含みおきください。

2006年08月01日
●「大量の評価」ができる画期的ソフトを開発しました

当研究所が現在使っているソフト「Onsonic VoI」は、「あることばがどんなイメージを人々に伝えるか」を捉えるものですが、今回、それとは反対に「あるイメージを表現するにはどんな音(音相基)を使えばよいか」を取り出すソフト「OnsonicII」を開発しました。これら2つのソフトは、いずれも当研究所が50年にわたる理論の集積結果得られた世界初のですが、 これらの機能を組み合わせることで、ネーミングの制作に次のような画期的手法の導入が可能となりました。(このソフトは株式会社ダイスの技術協力で実現したものです。)

(1)数多いネーミング案の中から瞬時に優秀作を取り出します。

商品名で表現したい事柄(コンセプト)を予めコンピューターに記憶させたうえ、多数のネーミング案を入力すると、個々の案のコンセプト表現度が数値によって順序をつけて取り出されます。そうして選んだ優良作を、さらにOnsonicVoIにかけ心理的、感覚的な精密解析を行って最終案を得るものです。
これらの作業は、これまで関係者たちの手作業で行っていましたが、選ぶ人の好みや主観が入るため、優れた作品が捨てられてゆくことが数多くありました。が、この分析法を導入すると、個人の好みや主観が入る余地がなく、大衆に好まれる優れたものが瞬時に選び出されます。

商品群ごとに行うコンセプトの設定や、取りだされた結果の補正には高度な専門技術を要しますが、それらは当研究所の専門家がクライアントのご意向を伺いながら、責任をもって行います。

(2)未使用商標を分析してその有効活用と、経費節減を図ります。

企業では将来生まれる商品のため、登録済みの未使用商標を数多く保有しており、その商標権維持のため、毎年多額の経費(税金)を使っています。高額なその支出が企業内ではつねに問題になりながら、商標として価値があるかないかを客観的に評価できる理論や技術がなかったため、その支出もやむなしとしているのが現状です。

そこで未使用中の商標が将来使用に耐えるものかどうかをチェックしてみる必要が生まれます。そのチェックならわが社では実施済みとお思いかもしれませんが、平均的な消費者が持つ感性と商品コンセプトの表現度などを客観的に評価できる技術は音相解析法をおいてほかにありません。

企業内のネーミング担当者でも、正確な音相解析ができる人はいませんし、ことばの専門家といわれている作家や音楽家などは、個性的な感性や好みで評価をすることが多いため、大衆一般がもつ感性とは大きくかけ離れたものになりやすいのです。当研究所が調査をしたところでは、未使用商標の三分の一は、保有をしても効果の上がらないものと判断しています。

だが、OnsonicVoIおよびIIの機能を組み合わせると、次のような解析が可能になるのです。未使用商標をコンセプトごとに分類し、前記1と同じように表現したいコンセプトをコンピューターに記憶させ、商標群を入力すると個々の語のコンセプト表現度が取り出されます。また分析の結果、その商品群に適さないと判断されたものでも、他の商品に使えばヒット・ネーミングになるものが少なからずあるはずです。また、どの商品にも使えないものは、十分な対価を得て社外へ譲渡すればよいのです。

(注) 企業では未使用商標にどれほど費用をかけているか
特許庁では商標の登録申請は、化粧品、薬品、衣料品、食品、電気製品、コンピューター、自動車、出版など45 の「区分」で行っています。そのため登録を行うときは、その商品と無関係な区分についても同じ名前で申請することとなりますから、1 語でも、20区分くらいに申請する例は少くないのです。

そのようにして特許をうけた商標は、10年ごとに一区分15万1千円の更新料を支払うことになりますから、1000語を20区分に申請すると10年ごとに30億2000万円、毎年3億200万円の印税を払うことになるのです。(この額には弁理士費用などは含まれません)

(3)ブランド戦略への応用。

ネーミングの制作には種々の戦略をともないます。例えば、新しい市場が生れるような新種商品の名付けのときは、新しい商品群の代名詞になるような名付けが必要ですが、類似の商品がひしめく市場に同種のものを出すときは、従来の傾向とかけ離れた音相をもつ名の方が有効なことが多いのです。

爽やかな響きの名前が多い「シャンプー」の市場に、「ダブ」という商品があります。この語を分析すると、濁音と有声音と「ウ」音という暗く淀んだイメージを作る音ばかりでできていて、これまでのシャンプーとは雰囲気が全く違った名前です。この名がもしシャンプー市場の創生期に出ていたら、商品コンセプトとは大きく離れた失敗作となっていたはずですが、爽やかな音相が氾濫しているシャンプー市場では、その暗さ、重さが返って斬新な印象となって人々の心に残るのです。ブランド戦略を立てる際には、このような大衆の感性から捉えた音相理論とその分析手法は新たな発想点になるものと思われます。

2006年08月01日
●計算されつくしたネーミング ・・軽自動車[ソニカ](ダイハツ)の魅力

 このクルマのコンセプトは、「装備性」、「走行性能」、「高級・軽自動車」ですが、そのイメージを「ソニカ」という音がどの程度表現しているかを音相分析で捉えてみました。まず表情語欄では、ポイント数の上位から順を追って見てみると、

爽やか、清らか150・0p
安らか、暖かさ54.5p
庶民的、適応性50.0p
若さ、溌剌さ50.0p
鋭さ、強さ50.0p
明るさ、開放的46.7p
清潔感、健康的45.5p
個性的、特殊的42.9p
軽快感、軽やかさ40.9p
都会的、現代的40.0p
合理的、現実的40.0p・・・・
とあり、前記したコンセプトを音響的に適切に表現した語であることがわかります。また「情緒解析]やその他の欄でも、「複雑度3」(非常な複雑さを示す)、「少拍」(コンパクト感、スピード感を示す)のほか、情緒解析欄では「普通でない感じ」「おおらかな感じ」「男女とも若者向き][コンパクト感][スピード感]などを捉えていて、この車のコンセプトを見事に捉えた音相をもつ優れた名前であることがわかります。

2006年08月01日
●難しいネガティブ語の評価法」 ・・・「やばい」という語が流行るわけ

  音相論では、否定的なことばや忌(い)まわしいことばのことをネガティブ語、こころよく肯定的なことばをポジティブ語と呼んでいます。音相分析表の表情語に出ている語は、「シンプルさ、明白さ」のように、すべてポジティブ語ばかりですが、この表情語にも、その裏側に「単純、無思慮、表面的、深みがない、底が浅い、」などというネガティブ語が隠されているのです。表情語にはネガティブ語をなぜ除いたのか。それは、評価を行うとき、ネガティブ語が1つでも入っていると、その刺戟の強さに囚われて、語全体のイメージを偏った見方で捉えてしまう恐れがあるからです。そのため、ネガティブな意味をもつ語を分析するときは、表情語の裏に隠れた「ネガティブ語」(小学館スクウェア刊「日本語の音相」119ぺージ参照)を見ないと正しい評価はできません。

「やばい」というネガティブな意味をもつ流行語を、ここで分析してみましょう。

表情語の最上位に出ている語(いずれもポジティブ語)と、その語の裏に隠れているネガティブ語を並べてみました。

表情語 ネガティブ語
シンプル・明白100.0p 単純、無思慮、表面的、深みがない
派手、賑やか75.0p キザ、騒々しい、目立ちたがり
庶民的、適応性50.0p 凡庸、妥協的、ありふれた
強さ、鋭さ50.0p 粗野、粗暴、乱暴、攻撃的
高級感、充実感50.0p 思い上がり、虚飾的
静的、非活性的45.0p 消極的、非活動的

表情語だけを見ても、この語の表情の方向性がほとんどつかめませんが、ネガティブ語を見るとこの語の概念や、この語を取り巻く雰囲気が明確に捉えているのがわかります。
「やばい」という流行語が何時までも人々に愛されている理由は、このような音相のよさがあるからです。

2006年08月15日
●「亀田興毅」(かめだこうき)を分析する

人の名前を分析すると、「表情解析欄」にある20の表情語の中から、「明るさ、優雅さ、行動的、若さ、派手さ、安定感…」など、その人らしい表情語が取り出されてきますが、最近珍しい音相の名前の人を見つけました。先日、ボクシングの世界チャンピオンになった人、亀田興毅です。

この名前を分析すると表情解析欄に「シンプル・単純」という項がただ1つ出るだけで、19ある他の表情語はすべてゼロポイントになっています。 またその他の欄からも「ヤングやジュニアに愛される」「スピード感がある」が出るだけで、これらから取り出されるのは「スポーツや音楽などに一途に激しく突っ込む性格の人」ということです。

しかしながら、分析表をよく見ると、「複雑度欄」に高ポイントの「4」がでています。複雑度の標準は1〜2だから、亀田は普通の人の2倍以上の複雑さをもっていることがわかります。

複雑度が高いということは、人間的な奥の深さや行動の幅の広さを意味します。
彼は持って生まれた「直情径行的」性格に元を置きながら、今後誰もが予想しなかったような意外な生き方をする人であることが考えられるのです。 どのような変わり方をするかは、彼をとりまくこれからの環境と本人の努力によって決まることは言うまでもありません。

2006年08月15日
日本経済新聞で新ソフト「OnsonicU」が紹介されました

音相研が今回開発した「OnsonicU」は、ネーミングをつくるとき大量の案の中からコンセプトにかなった優れた案を瞬時に取り出すソフトですが、8月1日の日本経済新聞紙上に次の記事が掲載されました。

onsonic
2006年08月15日
●FMラジオ【J−WAVE】で所長がOnsonicUを解説

8月11日のFMラジオ、「J−WAVE」の番組「ウエークアップ・東京」(5時〜7時)で、木通所長が新ソフトOnsonicUの機能や効用などについて約15分間、放送しました。  
 
その際、局側から、「いま売り出し中の外国の新人ミュージッシャン10名の中で、一番高い人気がでるのは誰かをOnsonicUを使ってとりだしてほしい」という要望があり、新しいソフトの初仕事として解析し、その結果を発表するという一と幕がありました。
 
ちなみに、解析した結果、次の3人が高い順位で取り出されました。
ジェームス・モリソン
テディー・ガイガー
ジェームス・ブラント・・・・
なお、この選出の際の前提となるコンセプトとして、木通所長は次のものを設定しました。
 
1、ポピュラー性があること
 
2、人や時代を引っ張るパワーがあること
 
3、あでやかさがあること
 
4、明るさと軽快感があること
これは、現代ミュージックに暗い木通所長の独断でおこなったものなので、コンセプトの設定に誤りがあれば、結果はまた違ったものになるはすです。

2006年08月15日
●感性豊かなグリコの「ポッキー」

人類がことばを使うようになったとき、私は擬態語や擬声語(これらを擬音語といいます)が大きな役割を果たしただろうと想像するのですが、そういう因縁からか、擬音語は何となく人間の温もりを感じることばのように思われます。
現代の新語や流行語の中にも「だべる、へたばる、スカッと」など擬音語から発展したと思える語が大変多いですが、そういう擬音語の親近感を利用して効果をあげているのがこの「ポッキー」といえましょう。
棒状のビスケットにチョコレートを塗った「ポッキー」を口に入れて折った感触をそのままネーミングにしたセンスの良さは高く評価されてよいでしょう。
そればかりか、この語の音相がまたたいへん優れているのです。
  分析表の表情解析欄を見てみると、
   個性的、特殊的     64.3p
      動的、活性的      60.0p
      シンプル、明白     50.0p
      若さ、溌剌さ      37.5p
    軽快感、軽やかさ    27.3p
    明るさ、開放的     26.7p
 
とあるし、コンセプト・バリュー欄では男女ともジュニアとヤングが好む音とあり、「スピード感」、「スポーティー」、「簡便さを感じる語」が出ているなど、この商品のコンセプトをそっくり表現した音を持つ語であることがわかります。
そのような音相が生まれた理由として、分析表から次のものが取り出されます。
(1)4拍〔音〕中の3拍が、明るさや軽さを感じる無声音(ポ,キ)と促音(ッ)でできていること
(2)無声音と促音が作るその「せせこましさ」を語末に長音を置いて安定感を作って終わらせていること
(3)逆接拍の「ポ」が、奥行き感や優雅感をつくっていること
逆接拍とは子音と母音がプラス(明るい)とマイナス(暗い)の反対方向を向く音のため、子音、母音が同じ方向を向く「ピッキー」や「パッキー」「ペッキー」などでは表現できない奥の深さや味わい深さを作っており、それが大人にも親近感を感じさせる大きな原因になっているのです。

2006年08月15日
●「麻痺現象」に気をつけよう

あることばに最初に出会ったとき、音の流れにぎこちなさを感じたのに、使いなれてゆくうちにそれが気にならなくなるということがよくあります。これを私は「ことばの音が持つ麻痺現象」と呼んでいます。

18年前「平成」という元号が発表された日、マスコミは町の人の声をいろいろ報じていましたが、その内容には「平凡」「感じがよくない」「明るさがない」「夢や意欲を感じない」などがほとんどで、無条件で「良い」と言った人はほとんどゼロのようでした。
この語を聞いて即座に「ノー」と答えた現代人一般のことば感覚の鋭さに私は深く感じ入り、当時担当していたある新聞のコラム欄で次のように書きました。

『この語は、穏やかで安定感はあるが、暖かさや親近感がなく、新時代への感動や夢がないことばだ。その原因を作っているのは、疎外的、排他的なイメージの強い「エ」音を全音(4音)で使っていることと、調音種にあいまいなイメージを作る「摩擦音」しか使っていないアンバランスにある』
と書きました。
ところが、それから3カ月後、同じ新聞社が同じ方法で街頭調査を行ったところ、今度は全く反対に「感じがよい、明るい、使いやすい」など肯定的な評価ばかりになっていました。

ことばはこのように、始めの第一印象が悪くても、使い馴れてゆくうちに「あまり悪くない」から「良い」にまで変わる傾向があるのです。
この現象は、元号や地名のように日常高い頻度で使われることばほど早い段階で現われるのです。
ことばに「麻痺現象」があるのなら、初めの第一印象など気にすることはないという人もいるでしょうが、麻痺をするのは表面だけで、初めに直感した第一印象は人びとの潜在意識の奥底で、いつまでも初めの第一印象がほとんど同じ形で居座り続けるのです。
このことは、平成を冠する社名が東証第一部上場の企業の中に1社もないのを見てもわかります。
とりわけ社名変更などが多かった平成年間に、大切な社名にこの名を使う気になる人がいなかったからなのです。それは人びとの潜在意識が拒んだものなのです。

「麻痺現象」について思うとき、何の効果も上げていないネーミングが、麻痺現象のお陰で厳しい批判から免れている多くの例を考えずにはおれません。

かつて、レナウンという会社が「フレッシュ・ライフ」という防臭抗菌ソックスを作りましたが、商品の優秀さにもっかわらず何時までも売上が伸びなかったため「通勤快足」とネーミングを変えたとたん、売上が9倍に伸びたということがありました。
「フレッシュ・ライフ」という音は明白な表情をもたない極めて印象不鮮明なことばですが、「通勤快足」は破裂音や破擦音、それに無声音を多く使って目の覚めるような「若さ、活力感、新鮮さ、明るさ」の表情をもったことばです。
「フレッシュ・ライフ」は麻痺現象のお陰でとりわけ厳しい批判をうけることもなかったため、漫然と居座り続けただけのものだったのです。
また、注意しなければならないことのは、「麻痺現象」のおかげで、苦情や批判から免れているものを、ネーミングが良いから批判がないのだと勘違いする怖さです。

現在使っているネーミングも、正規の音相分析を行って、その語自体がもつ「裸の価値」を見なおしてみることが必要なのです。