7月の記事一覧
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7月の記事
鶏頭の十四五本もありぬべし(子規)
病床にあった晩年の正岡子規が庭の眺めを詠んだ有名な句ですが、俳人、斉藤玄がこの句を「鶏頭の七八本もありぬべし」と読み替えたらどうなるかという論文を発表して俳壇で論議を呼んだことがありました。
これについて評論家山本健吉はその著「現代俳句」(角川文庫)で、
「これらの句をことばに出せば、その優劣は明らかだ。それは意味と音の間でかもし出される不思議な効果によるものだ。その秘密を解明できる人はいないはずだが、それを信じない人は、芸術などやめたが良い」(意訳)
と述べています。
意味と文字の間には一定の約束事があり、文字は事実や意味を具体的に伝えるという関係がありますが、「ことばの音」は雰囲気やイメージを伝えるという大きな働きがあります。
山本健吉は「意味と音の間の秘密を解明できる人はいないはず」といっていますが、その「秘密」を具体的根拠によって明らかにしたのが音相理論です。
そこで音相理論を使って、なぜ「七八本」ではいけないのかを述べてみたいと思います。
これら2句のイメージの違いは「じゅーしごほん」と[しちはちほん]という音の違いから生まれたものですが、これらの語の音相を分析して「表情語」欄を比べてみると、上位にある表情語とそのポイント数が大きく違っているのがわかります。
・「じゅーしごほん」が持つ表情
非活性的 60.0%
安定感 54.5%
充実感 50.0%
優雅感 36.4%
・「しちはちほん」の表情
庶民的 100.0%
活性的 90.0%
躍動感 87.5%
清らかさ 87.5%
現代的 80.0%
派手、賑やか 75.0%
明るさ 60.0%
・・・・・・
すなわち、十四五本には「優雅さや落ち着き、充実感」といった達観や無常観など静的な心を表現する音でできているのに対し、七、八本は「活力感、派手さ、明るさ」など、現実的でありふれた日常性を感じる表情語ばかりでできたことばであることがわかります。
明日をも知れぬ病床の子規の心象を思うとき、山本氏が指摘するように、「しちはちほん」では詩的表現としてはあまりに低いことばであることが、この分析からわかるのです。
辞書によると、メロディーは「音の流れが作る美しさ」、リズムは「規則正しい音の繰り返しが作る美のかたち」とありますが、私は西欧語と日本語の音韻の違いは「西欧語はメロディ−を楽しみ、日本語はリズムを楽しむ言語」といえるように思います。
その違いが、メロディ−の西欧語では「韻をふむ(押韻)」という手法を発達させ、リズムの日本語では五、七、五音などの音数律を発達させたと思うのです。
西欧語の押韻には、文頭の音を繰り返す頭韻と、文末を繰り返す脚韻がありますが、それらを一定の間隔をおいて繰り返すことで心地よい音の流れをつくるのです。
これに対し、日本語は一つ一つの単音(音節・拍)が明白に聞きわけられる言語であるうえ、「アクセント」が強さを強調しない「高低アクセント」であるところから、単音のまとまりが作る「音数律」が発達したものと思うのです。
その違いが、メロディ−を尊ぶ西欧語ではメロディーを作るのに有効な長いことば【「ジョンソン・アンド・ジョンソン」(11拍)や「ストラディバリウス」 (8拍)など】が何のためらいもなく使われますが、拍の1つ1つに母音がつく日本語では途中で休止が必要となり、少ない音で区切りをつくる音数律(リズ ム)が好まれるようになったのです。
日本語の詩にも、ときどき韻を踏んだものが見られます。
春が来た 春が来た どこに来た
山に来た 里にきた 野にも来た
句の終わりがすべて「来た」で明白な脚韻をふんでいますが、日本人の誰もがこの詩に感じるのは、押韻の美ではなく、三音・二音の繰り返しが作る音数律の快さだと思うのです。
ことばのイメージを、音相分析はどの程度まで捉えることができるでしょうか。
それは、単純な意味しか持たないことばと、複雑な意味を持つこと ばとでは大きな違いがありますし、分析する人の「ことば感覚」や言語知識などでも大きな違があるはずですが、分析表を見たときの感想を多数の人から聞いて きた私の経験から、音相理論への理解度の傾向を相当程度把握ができるように思います。
分析表をはじめて読んだ人の理解度は、その語がもっているすべてのイメージの20〜25%くらいまでのように思いますが、それより高い知識をもつ人(たとえば小著「日本語の音相」を精読したレベルの人)の場合は70%ぐらいの理解度と考えてよいようです。
さらにその上を理解するには、分析経験の程度やことば感覚の高さによって80%ぐらいまでは可能なように思います。
そして、最後に残った20%の内容ですが、これには2つのものがあるようです。
一つは、文章で表現すると誤解を生むおそれがあるため、公表を差し控えている部分が10%、残りの10%は初めから音相分析の対象とならないことばです。
それは、法律や学術用語などに多く見られる「意味の正確さだけを目的に作ったことば」で、それらはもともとイメージを取り出すに値しないことばなのです。
音相システム研究所ではこのたび、株式会社ダイス(社長 小関昭彦氏)の技術協力を得て、新たにOnxonicUというソフトを開発しました。
現在使用中の「Onsonic voT」は、「ある語がどのようなイメージを持ってい
るか」を解くものですが、「OnsonicU」はそれを裏返したもので、「あるイメージを表現するにはどんな音(音相基)を使えばよいか」を客観的データを元に取り出すソフトです。
これら2つの機能を組み合わせることで、これまでネーミングの制作方法では思いおよばなかった種々の手法が可能となります。
すでに実用化しているものをご紹介しましょう。
大量のネーミング案から客観的に価値ある優秀作を取出します
商品名として表現したいコンセプトを予めコンピューターに記憶させたうえ、多数のネーミング案を入力すると、個々の案のコンセプト表現度が数値によって取り出されるものです。
そうして選んだ優良作のいくつかを、既存の「Onsonic VoT」にかけ,さらに精緻な分析を行ったうえ、最終案を取り出します。
大量の案の中からわずかな候補作を選び出す作業は、現在でも制作関係者の手作業で行っていますが、長い期間がかかるうえ、どうしても個人の好みや主観が入るため、優秀作が作業の初めの段階で落とされてしまう例がたいへん多くありました。
新しい分析法を用いると個人の主観が入る余地がなく、指定したコンセプトの達成率が極めて正確に、そして瞬時に取り出すことができるのです。
*ストック商標の有効使用と、経費節減策のご提案
企 業が大量に抱えている「ストック商標」は、毎年多額の維持費を支払っていますが、それらを前記と同じ方法でコンセプトとの関係で再評価し、保有しても将来 使用の可能性が低いものは、より効果が発揮できる他商品や他部門へ流用したり、他社へ譲渡することで大幅な経費節減が図れます。
「ストック商標対策」については、8月第一号で詳しくお伝えいたします。