4月の記事一覧
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4月の記事
先日、音相を学びたいというある大学の文学部生が研究所を訪ねてこられました。いろいろお話したあと、私はこんな質問をしてみました。
「君は蛍ということばを聞いて、どんなイメージを持ちますか」と。
しばらく考えた彼から
「清楚で、穏やかで、不思議な虫、情緒を感じる虫・・・」という返事がありました。
そこでこの語をコンピューター(OnsonicT)に入力して出てきた分析表をお見せしながら次のようなコメントをしました。
「君がとらえた4つのことは、分析表でも高いポイントで捉えていますが、コンピューターは君が気づかなかった次のイメージも捉えていることがわかるでしょう。
つまり表情語欄には
@非活性的、A暖か、B清潔感、C軽やかさ。
がでているし、情緒解析欄には、
D曖昧感、Eためらい感、Fクラシック、G神秘的、H哀感、
I鄙びた感じ、J純粋さ、K素直さ、L夢幻的、M普通でない感じ、
N孤立感、O寂しさ…
などがあります。
音相分析を行うと、ことばに含まれている表情や、その語の周辺に感じられるオーラのようなものを、こんなに多く取り出すことができるのです。
君は私の質問に、4つのことを答えました。どれもがたいへん大事なもので、君のことば感覚の高さに感心したのですが、音相分析ができるソフトOnsonicTはその4倍ものイメージを教えてくれているのです。
人並み以上に高い感性を持つと思えるあなたでも、このソフトに比べると「感性」の幅が、どんなに狭いかがおわかりいただけるでしょう。」。
そんな話が、夜遅くまで続きました。
ネーミングはその出来のいかんが会社の浮沈にもかかわるため、どの企業でもその制作には最高幹部を先頭に多数の人を動員し、長い期間をかけて取り組みます。
そこで行われるの作業には、主に次のものがあります。
1、 新商品のコンセプトの検討
2、 ネーミング戦略の調査、検討
3、 素案収集法の検討と、その収集作業
4、 素案から候補案を選び出す作業(意味、レタリング、デザイン等の検討)
5、 商標調査(おもに外部委託)
6、 候補案の絞込みと決定(会議、立案、決裁等)
7、 対外発表
しかしながら、このような大きなプロジェクトの中で、大衆がどんなネーミングを好むかという、肝心かなめの検討はほとんどされないで終わっているのが現状です。
高度な音響感覚をもつ大衆が何より重視しているのは「音が作るイメージの良さ」ですが、その種のことはどの段階でも行われておらず、「語感の良し悪し」という抽象的なことばが時々軽くでるだけで終わっているのが現状です。
ネーミングの制作で「音」がナゼ議論にならないのか。それは「イメージ」には感覚的なものが多く含まれるため、論じれば相当時間がかかるし、そこには専門的な学習が必要となるからです。
ネーミングにはこのような環境の中で生まれますが、名前が決まって社会へ出ると、大衆は音が作る「イメージ」の良しあしでほとんど評価を決めているのです。
すなわち、人々はネーミングの音が伝えるイメージと意味(商品コンセプト)との間に感覚的な違和があるかないかで好きや嫌いを決めているのです。
1とシーズンだけで終わるような短期の商品なら、意味やデザインやキャラクターだけでそれなりの効果を上げることもできますが、大衆の心を長期にわたって捉えたい本格的なネーミングの場合は、イメージの良さがなければならないのです。
ネーミングは、1年もたつと意味の良さなど忘れられ、音の感じの良さだけが究極の価値となって残るのです。
「ネーミングは何より音が大事」と私が言う理由がそこにあるのです。
・・・暖かさ、春の風情を作る音
(必要な音相基)
・調音種比が低い
・総合音価が低い
・高勁輝拍が少ない
・摩擦音、鼻音、流音が多い
(例語)
うららか、春、ほのぼの、のどか、爛漫、菜の花、
暖か(い)、ホット、暖(だん)、ほかほか、
ぬくも(る)、団らん
音相理論の中で「大衆」ということばがよく出てきます。
それは音相が、大衆の平均的な語音感覚で作られることと関係があるからです。
「大衆とは、生産物の消費者やマス・コミュニケ−ションの受け手として常に受動的な立場をとる無定型、無組織の人々のこと」と言われていますが、社会学や 心理学の辞典を見ても、共通の目的をもってある場所に集まる「群集」という語は出ていても「大衆」は語そのものがないのです。
大衆は、群衆のように集団を作らず、共通の目的ももたないとりとめのないものですが、ことばの音相を究めるうえで大衆という概念を明らかにしておかねばなりません。
そこで私は次のような、私なりの定義づけを行ないました。
「大衆とは個々別々の関係でしかない人たちが、何らかの事態が生起したとき、意思や感覚を共有できる可能性を持った人々」だと。
大衆がことばの音について行なう取捨選択ぶりをみていると、そこには驚くほど秀抜な直感力と、客観性の高い評価力があるのがわかります。
個人が1つ1つのことばに抱くイメージには、一部にその人なりの主観が入りますが、そのような主観部分を取り去ってあとに残ったものが「大衆の平均的感性」というものです。
初対面の人たちが互いに心の機微を伝え合えるのも、新語や流行語の発生や消滅が狂いのない感覚的な秩序のもとで行われているのも、大衆の平均的感性がそこにあるからにほかならいのです。
「日本語の音相」を読破しました。私の生涯の研究テーマにしてゆきたいと思っていますが、刻々と変わる研究内容などが知りたいので、機関誌などがありましたらお送りください。 (渋谷MK)
A.
「ことばのイメージ研究」の基幹となるものは著書「日本語の音相」でほとんど述べてありますが、その後の研究や研究所の動きなどをお知らせするため、機関誌の代わりにこのホーム・ページを立ち上げました。
ホーム・ページの本文には、最近の研究情報や、著書で詳しく述べなかった部分や、その後の研究などを載せることにしていますが、長文の掲載は不可能なので短いことばに要約してあります。
また、左側の目次欄の「音相理論のあらまし」以下の欄では理論のアウトラインを述べ、「音相マガジン」欄ではHP開始以後の記事がすべて見られるようになっています。
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古くから使われていることばには、音相的に美しいことばが多く見られます。
美しいことばとは、その語が持っている意味や雰囲気にふさわしい音を使ったことばを言うのです。
昇る太陽を意味する「朝日」と、日が沈むときの「夕陽」には、誰もが音の響きに違ったイメージを感じます。「朝日」には庶民的で若さや活力のようなものが ああり、「夕陽」には艶やかさとともに「西方浄土」の説話にあるような、もの寂しさを感じます。そのようなイメージの違いを、これらの語がどのように表現 しているかを見てみようと、音相分析を試みました。
「朝日」
庶民的 100.0ポイント
シンプル感 50.0ポイント
強さ 50.0ポイント
活性的 30.0ポイント
軽快感 27.3ポイント
(複雑度 0)
「夕陽」
安定感 68.2ポイント
鋭さ 50.0ポイント
充実感 50.0ポイント
優雅感 45.5ポイント
非活性的 45.0ポイント
(複雑度 4)
「朝日」は、「庶民性、シンプル感、活性感、明白さ、軽快感」が上位を占め、複雑度のゼロが若やいだ「朝」のムードを捉えていますが、「夕陽」には「安定 感、充実感、優雅さや寂しさ(非活性感)」と、「複雑度の高さ」が加わって、朝日とは全く反対の情緒と奥行きのあることばであるのがわかります。
日本人の誰もが感じている「朝日」と「夕陽」のイメージの違いを的確な音相で捉えたことばであることがわかるのです。
江戸時代以前から、庶民生活の中でかけがえない必需品だった「風呂敷」が、最近テレビで話題になったり、デパートなどの店先にも見られるようになりました。
銭湯へ行くとき桶や手拭を包み、脱いだ衣類を包み、帰りはまた桶などを包んで帰ってくる。風呂敷という名はそんなことからついたのだそうですが、そういう「風呂敷」の機能や実体(コンセプト)をこの語の音がどれほど表現しているか、音相分析をしてみました。
表情解析欄をみてみると上位のところに、
清らか 87.5ポイント
現代的 60.0ポイント
適応性 50.0ポイント
清潔感 45.5ポイント
個性的 42.9ポイント
暖かさ 40.9ポイント
開放的 40.0ポイント・・・
が並び、情緒欄でも「曖昧さ(融通性、)情緒性、クラシック感」など、風呂敷が持つ機能や情緒をあますところなく捉えているのがわかります。
・・・研究生レポートより
俳句の歳時記を読んでいたら、「朧月夜」という言葉に出会いました。
「湿気のため月が霞んで見える晩春の情景」と書かれています。
ホッするようなくつろぎと、どこかに淡い寂しさを感じることばです。
「朧月夜」・・・音楽の授業で歌った懐かしい歌のタイトルですが、最近ではマライヤ・キャリーの「MOISTYMOON」や、中島美嘉さんの「朧月夜〜祈り」などにもでてくるようになりました。
この語を音相分析してみたら
静的・非活性的 105ポイント
高級感・充実感 100ポイント
信頼感・安定感 95.5ポイント
高尚な・優雅さ 63.6ポイント
がトップにあり、この語から浮かんだイメージを、音相がそっくり捉えていることがわかります。
すると1つ、ポイント数ゼロの中に「清らかさ、爽やかさ」があるのに不思議を感じ、先生に伺ってみましたら、
「清らか、爽やかはカラッとした乾いた空気とつながる概念で、湿気をおびた朧月夜の雰囲気には、ポイント数はゼロの方がよいではないですか」とのご指摘でした。
私の中に、美しいことばには「清らかさ、爽やかさ」が必ずあるという単純な主観が住み着いているのに気づくとともに、音相理論や分析法の緻密さに改めて感じ入った次第です。
春が進んで朧月夜の季節がきたら、分析表がとりだしたものをもう一度実感してみたいと思っています。(日紫喜友紀)
・・・スピード感を作る音は?
(必要な音相基)
無声音が多い
・プラス高勁輝性の語
・促音がある
・子音拍が多い
・長音が多い
・順接構成
・無声化母音が多い
・高勁輝拍が多い
(例語)特急、緊迫、緊張、疾風、ジェット機、光、ダッシュ、快速、スピード、超〜 、即、すぐ、疾風、突進……
先月この欄で、ことばは意味(コンセプト)との関係で音の優れたことばが生き残り、よくない方は死語となって消えてゆく傾向があることと、その選択は大衆によって行われるということを述べました。
だがそれならば、現代語には悪い語などないはずですが、現実には音相的な不良語がたくさん使われているのはなぜでしょうか。
それは実在することばの中に誰もが良くないと感じながら、次のような事情から、死 語にできないことばがたくさんあるからです。
1、大衆が手をつけられないことばが多いため。
企業が作るネーミングや学術上、行政上などの必要から作られたことばがこれに当た ります。これらはよくないことばと思っていても大衆が勝手に変更できないことばだ からです。
2、よりよいことばが出現しないため。
よりよいことばが生まれないため、好きでなくて使わざるをえないことば。
3、意味や文字だけを考えて作ったことばのため。
音への考慮などなしに、意味や文字だけで作ったことばです。
それは漢語や外来語のほか、最近多い2つのことばの一部をくっつけただけの短絡語
(マエ彼、デパ地下、合コン、朝シャン、ミニスカなど)などに多くみられます。
私の経験から考えて、いま使われていることばの40%ぐらいがこれに該当している ように思うます。