11月の記事一覧
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11月の記事
朝日ビールが10月から発売したビール「ごくうま(極旨)」。
この商品のキャッチワードは「コクがうれしい・ごくうま」だ。
分析表の表情解析欄を眺めると「コク」の概念を表現するのに必要な表情語「静的」、「充実感」、「安定感」、「優雅さ」などP.Q.R.S.Tの項をすべて捉えているのはまことに優れた感性である。
だがしかし、人々がビールに対して抱く「爽やかでシンプルな咽喉越しの刺戟感や庶民的なイメージ」などを表現するのに必要な表情語「シンプル」、「新鮮さ」、「軽やかさ」、「爽やかさ」、「庶民性」(A.C.F.M.N.O)などの各項がすべてゼロポイントになっている。
このビールに期待した会社側のコンセプトを熟知しない門外者が、ネーミングの良否を論じることは軽率だが、大衆の平均的感性という音相論の立場で見る限り、何かしら半分割り切れないものある。
ドット・コム「.com」は、インターネットのドメインで使われている記号だが、最近では「旨いもんドットコム」「育児ドットコム」「観光ドットコム」「国内線ドットコム」「自治体ドットコム」など、「情報」や「商品」のような意味にも多く使われている。
画像をクリックすると大きくなります。表情解析欄の上位の方を見てみると、「高級、安定感、静的、優雅さ」など高尚、優美な表情語が並び、それに続いて「軽快感、進歩的、新鮮さ、活性的」などIT社会を表すのに必要な表情語が並んでいる。
このように、安定、高級ムードの中に、新しいIT時代を思わせる音があるため、いろいろな意味転用される理由も納得できるのだ。
そのようなイメージがこの語から生まれた理由は、ここでは長くなるので省略した「複雑度」欄の「3」(複雑)、逆接拍の多用(ト、コ・・・拍数比67%)、無声化母音(ム)の使用およびコンセプトバリュー欄の男性ミドル層の高ポイントによるものだ。
音相論は、ことばの音がもつ表情(イメージ)をの数量的な把握に成功した世界初の理論だが、
この理論が、なぜ日本語で初めて実現できたのか。
それには次の理由があったように私は思う。
(1)日本語が整然とした体系を持つ言語であったこと。
日本語は文法の活用形などに見られるように、言語構造が体系的で例外的扱いとなるものがほとんどない。
(2)他言語の影響をほとんど受けていないこと。
日本語は統辞構造(ことばの順序)や文法、音韻など、言語にとって骨格となる基本の部分が外国語の影響を受けていないことだ。
日本語では、漢語やカタカナ外国語が多く使われているが、それらのすべてが「名詞」の役割しか果たしていないといえる。
例えば「Beautiful」という形容詞は、付属語として「な、だ、で、に、なら」の活用語尾をつけ形容動詞として受入れている。
すなわち、「Beautiful」は形容動詞の語幹だから「名詞」としてしか作用していないのだ。
私が調べたところでは、現用している日常語を単語を単位で分解すると、80%程度がやまとことば(和語)系の語であることが明らかになる。
日本語は現代でも、やまとことば(和語)の伝統を基本した純度の高い言語なのだ。
(3)日本語は音節(拍)数が適当な数であったこと。
日本語は、表情を捉える単位となる音節(拍)が、138と妥当な数であったことがあげられる。
音相理論では、ことばを音相基に分解したあと「拍」(音節)を単位で表情を捉えるが、その数が多くなると拍で表情が捉えることが困難となる。
英語の場合でみると、その音節数は学者によって、1.800ぐらい、3.000以上、10.000以上など総数の把握もまちまちだが、数がそれほど多くなると、ヒトの脳のイメージ識別機能が限界を越えて混乱を生じるからだ。
日本語があらゆる音声を138という手頃な数で集約できたところに、ことばのイメージの把握を可能にした1つのな理由があったといえる。
エという音は、昔から次にあげる例のように、親しみの感じられない、ネガティブな意味を持つ語に多く使われている。
古語
えこ(ひいき)、えこじ、えずい、えせわらう、けうとし、けがれ、けしかる(異様である)、げす(下司)、げせん(下賎)、もののけ(物の怪)、
げにん(下人)、けばけばし、げらふ(下郎)、げんなり、せせら笑う、
せたぐ(いじめる)、せちがう、せっつく、せぶらかす(いじめる)、えせ、せめぐ、せりかく(せきたてる)・・・
現代語
えげつない、えへへ、げひん、えぐい、けがらわしい、でれでれ、せこい、げろ、えてかって、けがす(汚す)、けがれ、けしかける、ケチ、せびる、
けちょんけちょん、ゲテモノ、げらげらエッチ、ねだる、でたらめ、
てこずる、でくのぼう、ネグる、ねじれる、ねたむ、ねばねば、、へろへろ、ねめつける、えへらえへら、アカンベー、へたばるげんなり・・・
このようなことばに「エ」音が多く使われるため、人々はエ音を聞くと心の中にそういうイメージを感じてしまうのだ。
ネーミングを行うなどの際、日本人に潜むそそのような無意識な意識の存在を忘れてはならないのだ。
しかしながら、数はきわめて少ないが同じ「エ」音が「はつね(初音)、笑まう、たおやめ(か弱い女)、姫、綺麗、麗人、化粧、エメラルド・・・」など、上品さ、優雅さを思わせる語にも見られるし、「シャネル、フェラガモ、ピエールカルダン、エルメス、カルティエ」など、「エ」音があることで魅力の出た語も少なくない。
美を感じる「エ」か感じられない「エ」か、それは語が持つコンセプトや他の音相基との関係によって判断しなければならないのだ。
ことばは意味を伝えるばかりでなく、イメージを伝える働きをする。
意味は文字で正しく伝わるが、イメージは音によって正しく伝わってゆく。
すぐれた感性を持つ現代人は、音相を有効に使って言語生活を行なっているが、ことばに対して常々次のような疑問や悩みを持っている。
1.「美しいことば」と音との関係がわからない。
2.「センス」と「感覚」など、同義語間でイメージの違いが生じる根拠がわからない。
3.大衆に好感を受ける語と、受けない語の仕組みの違いは何なのか。
だがことば科学は、これらについて応えてはくれない。
そのため文筆を業とする人や、ことばを専門に研究している人たちが、個人の主観的な感想を、客観価値があるかのように押し付けてきて世間を惑わせている。
ある人は言う、「怪獣の名にはガ行音が多い。それはこの音が子供の好む音だからだ」と。
だが、ガ行音は暗く、重々しく、存在感のある、無邪気な子供が恐れ、逃げ出したくなる音なのだ。
怪獣の名はそういうおどろおどろしさをねらってつけたものなのだ。
また、
まじり合ひて 濁らぬ泡や 冬泉
という句を、著名な俳句評論家が次のように批評した。
「前半にある濁音が、この句から清澄な印象を奪ってしまった」(原文のまま)と。
この句はたしかに清澄感の表現に欠けるが、その理由は暗く沈んだイメ−ジを作る有声音の異常な多用と、清澄感に欠かせない無声摩擦音の使用が極度に少ないことによるものだ。
現代の日常語の場合、有声音の使用割合は、平均的に音節数(拍数)の60%程度だが、この句の場合「て」1音を除く17音(94%)が有声音でできているし、清澄感の表現に欠かせない無声摩擦音は「ふ」一音しか入っていない。
また「濁音」は18音中3音と標準よりはるかに少ないから、清澄感を欠く原因とはなっていないし、まして前半の濁音「じ」はこの場合その根拠にはなっていない。
濁音が作る表情には「優雅、落ち着き、平穏、存在感、暗さ、重さ……」など多くがあるが、前後に配されている音相基(音)との関係で、中の一つが顕在的に機能するのである。
A.「音価」という語は、いろいろな学術用語にも使われています。
音声学や音韻論では「過去に使われていた実際の発音」を言い、「平安時代の『ン』の音価は『ム』であった」のように使われます。
また音楽関係では、音符や休符によって表わされる個々の音が持つ時間的な相対値(時間の長さの比率)」をいい、「この小節における『ファ』の音価は・・・」のように使われていますが、音相理論では「ことばの音のB値(明るさ、暗さ)とH値(強さ)が作るイメージ的な環境のこと」を、音価(英phonetic value、仏valeur de son)と呼んでいます。
「ヤバイという語がはやりだして十数年たつが、今も若者ことばの代表格として、いろいろな形でおもしろ可笑しく使われている。
日本語には、身に何か危険を感じたとき、「危ない、怖い、危険、不安、ひやひや、恐ろしい、どきどき、びくびく」などの語が使われるが、これらの音相を分析すると、どれもが20個ある表情語の中の「シンプル(A)」「特殊的(K)」「鋭さ(L)」[庶民的(M)]「非活性的(T)」と、それに「複雑度」の欄に高点がでるが、次表のように、「ヤバイ」もまたこれらのすべてが高点になっているのがわかる。
だが、この表で注目したいのは、若者的な雰囲気を作る「シンプル」「派手」「鋭さ」「個性的」「軽やかさ」「活性的」などが高点にあることだ。
さきに上げた「危険を感じたときのことば」の表情語には、若者向きを表わした語は1つもない。
「ヤバイ」の特徴は「若者的」を表現した唯一の語だといえるのだ。
長年愛用されている「ヤバイ」は、もはや一時の流行語ではなく個有の概念を持った立派な日本語の語彙として、いつまでも使われ続けてゆくことだろう。
類義語の音相を分析して内容を比較すると、このように1つ1つの語が持つイメージの微妙な違いが見えてくるのである。
「あほー」は「馬鹿」の関西方言で、どちらも愚かさの意味をもった語だが、そこに微妙な違いがあることは誰もが感じていることだろう。 その違いを、音相分析がどこまで捉えているかを調べてみた。
愚かさを表現するには、分析表の「表情語」の、「シンプル(単純A)、にぎやか(E)、軽さ(F)、活性的(D)、庶民的(M)、非活性的(T)」などのあることが大事だが、つぎの分析表で見られるように、どちらの語もこれらの表情語に高点があり、ともに「愚かさ」を示すに相応しいことばであるのがわかる。
画像をクリックすると大きくなります。 だがポイント数の高さによって両語の違いが明らかになる。
表情解析欄の最高ポイント数は「馬鹿」が75.0と高いのに対し、「あほー」はが50.0と低く、複雑度は前者の2に対し、後者は4と高位にある。
最高ポイント数が高く複雑度が低い語は、単純さが表現されるが、おなじ表情語でも、最高ポイント数が低く複雑度の高い語は、深みや複雑さを強調した語になる。
そのため「馬鹿」は単純な愚かさのイメージを作るが、全体の表情を低めに抑えた「あほー」は、奥行きや複雑さを内に含んだ愚かさであることがわかる。
またその「奥行き感」が「少拍」と響きあうため「あほー」には「ユーモア感」を作られている。
このようなイメージの違いは、どこから生まれるのか。
それは、強く冷たい響を作る有声破裂音ばかりでできた「ばか」と、どんな音にもアダプトできるニュートラルで大衆的なイメージをもつ「あ」と、軽やかで穏やかなムードを作る無声摩擦音「ほ」との組み合わせの違いによるものだ。
宮城県を中心に活躍する各種デザイン団体が主催して、デザイン価値の追求を目的とする「仙台デザイン・ウィーク」が毎年多彩な行事を行っている。今年は、その行事の1つとして市内メディアテークのギャラリーで特別講演会が開催され、当研究所木通所長が「心に響くネーミングの極意…貴方のネーミングは間違っている」の題で、講演を行った。
ピアノのキ−を指1本で打った音は比較的単純な音に聞こえるが、2つのキ−を同時に打った和音のときは、高と低の波長が重なって奥行きや厚みのある音になる。
この原理をことばの音に取り入れたのが逆接、順接の理論である。
音相論では子音と母音がプラスとマイナス(明るさと暗さ)の反対方向を向く拍(音節)を逆接拍、同じ方向のものを順接拍と呼んでおり、逆接拍は順接拍に比べると奥の深さや複雑なイメージを作る音になるというものだ。
そのことを、「金」と「銀」という2語の比較で見てみよう。
「キン」の「キ」は子音と母音が+と+(陽と陽)を向く順接拍で、
「ギン」の「ギ」は−と+(陰と陽)の反対方向を向く逆接拍である。
キ……k(+B1.3 H1.3) + i (+B1.0 H1.0)
ギ……g (-B2.0 H1.0) + i (+B1.0 H1.0)
その結果、順接構成語の「キン」は、「金満家、金歯、成金,金ピカ」など単純で表面的な美しさを表す語に多く使われるが、逆接構成の「ギン」は、金属の価値は金の50分の1しかないにもかかわらず、「銀閣寺、いぶし銀、銀座、銀の鈴、銀馬車、銀ぎつね、銀河」など内面的な美しさや奥ゆき感、優雅感を持った語に多く使われていて、ネガティブな語には見られない。
また、草むらにすだく秋の虫の名で逆接拍の入ったものに「まつむし、すずむし、こおろぎ、きりぎりす、くつわむし」があり、順接構成の虫の名には「うまおい、かねたたき、かんたん」などがあるが、古くから詩歌などで歌われているのは前者(逆接構成)の方で、美しい音色を持ちながら順接構成の後者の虫は和歌の中で使われることは極めて稀だ。この国には遠い昔から「秋の風情」を伝える虫の名には、逆接構成の名がふさわしいと感じる音相感覚が存在していたことがわかるのだ。
日本人はこのようにして日本語個有の音相感覚を磨いてきたのである。
その感覚は現代語の中でも、数多く見ることができる。そういう例をあげてみよう。
・「奇麗」(順接)と「美しい」(逆接)・「キラキラ」(順接)と「ギラギラ」(逆接) ・「青い海」(順接)と「ブル−の海」(逆接)・・・
ことばの中には分析表の表情語を見ただけで明白な表情が捉えられる語があるかと思うと、表情が捉えにくい語も少なくない。
後者の語は複雑な表情を持った語に多いのだ。
「複雑」という語は、現代では「不明瞭,インケン」など、ネガティブな意味に使われることが多いようだが、この語の本来の意味は奥行きや厚み、高級感、優雅さなどに結びつくことの多い語なのである。
音相分析では、ことばがもつ複雑さを[複雑度」欄で示すが、そこで示される複雑さの程度は次の3つのものから捉えたものである。
(1)表情語の対立関係から捉える。
意味や雰囲気が相反する方向にある次のような表情語が、高点で対立しているとき。
「個性的、特殊的」(K) 対 「静的、非活性的」(T)
「躍動的、進歩的」(B) 対 「暖かさ、安らぎ」(P)
「若さ、溌剌さ」(G) 対 「静的、非活性的」(T)
「庶民的、適応性」(M) 対 「個性的、特殊的」(K)
「新鮮さ、新奇さ」(C) 対 「高尚、優雅」(S)
「明るさ、開放的」(I) 対 「静的、非活性的」(T)
「強さ、鋭さ」(L) 対 「暖かさ、安らぎ」(P)
「派手、賑やか」(E) 対 「安定、信頼」(Q)
「若さ、溌剌」(G) 対 「高級感、充実感」(R)
「動的、活性的」(D) 対 「静的、非活性的」(T)
「高尚、優雅」(S) 対 「動的、活性的」(D)
「現代的、都会的」(H) 対 「静的、非活性的」(T)
「シンプル、明白さ」(A) 対 「高級感、充実感」(R)
「強さ、鋭さ」(L) 対 「静的、非活性的」(T)
・・・・・・・
このような反対方向を向く語の場合、その表情は相殺されてゼロに近づくのでなく反対方向の表情を同時にもった「複雑」な語となるのである。
表情語の中にこのような対立関係がある場合、1対立ごとに1ポイントと計算する。
(2)表情語の最高ポイント数が低いとき
表情語のポイント数はその表情語と全く相反する概念の語との差の部分が表示されると考えてよい。したがって、表情語の最高ポイント数の低い語は複雑な表情を持った語といえる。
そのため、最高ポイント数を3段階に層化し、それぞれに次のポイント数を与える。
最高ポイント数が24ポイント以下・・・・4ポイント
最高ポイント数が34ポイント以下・・・・3ポイント
最高ポイント数が50ポイント以下・・・・2ポイント
(3)逆接拍が多いとき。
逆接拍のことは前項で述べたが、逆接拍は語全体のイメージに複雑さや奥行き感を与えるため、一語中に逆接拍を多くもつ語は、複雑度の高い語といえる。語の拍数に対する逆接拍数の比率により、次のポイント数が付与される。
拍数比50%以上・・・・3ポイント
拍数比35%以上・・・・2ポイント
拍数比25%以上・・・・1ポイント
以上(1)(2)(3)項のポイント数を合計し、その和が4ポイント以上の語には複雑度欄に「複雑」、3〜2ポイントの語には「やや複雑」、1〜0ポイントは「0」と表示する。