10月の記事一覧
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10月の記事
体験版で「ペプシコーラ」を分析してみてください。
上位の部分に「活性的、現代的、躍動的、若さ、庶民性、明るさ、現実的、新鮮さ」など「清涼飲料」のコンセプトを的確に捉えた表情語が並んでいるのがわかります。
これだけでも、優れた音を持つネーミングであることがわかりますが、この語にはさらに勝れたテクニックが隠されているのにお気づきでしょうか。
それは「難音感」(言いにくさ)という欠点を逆用して、大きな効果を上げていることです。
この語の場合、半濁音が2音(ペプ)連続するため「難音感」があるのですが、語の中に難音箇所があると、そこで音の流れが乱れ全体のイメージが壊れます。そのため、難音感はなるべく避けて通ることが賢明です。
だがこの語の場合は、難音感を敢えて語頭に置いて音の流れを乱すことにより、口中の炭酸飲料の泡つぶがはじける感触を表現しているのです。
ことばのイメージを作るには、こんな離れ技もある例として取り上げてみました。
(木通)
庶民の身近かな娯楽「パチンコ」という語が、どんなイメージを人々に伝えているかを調べてみました。
表情解析欄に出ている表情語のポイント数を高い順に並べてみると、
「清らか、活性的、若さ、現代的、開放的、シンプル、特殊的、躍動感、庶民的」となり、この語の実体を的確に捉えた語であることがわかります。
そのことは、優雅さや高尚さを表す表情語「安定感、高級感、優雅さ」が、いずれもゼロポイントとなっていることからもわかります。
また体験版では省略してありますが、「シンプル感」(単純さ)の高さを裏付けるように、「複雑度」がわずか「1」しか出ていないし、情緒欄には「不透明感」(曖昧感、乱雑さ)が出ています。
単純で気楽に遊べる「大衆娯楽」という語がもつさまざまなイメージを、全部まとめて音にしたような、うまいことばであることがわかるのです。(木通)
ネーミングの専門家たちの間で「濁音は暗い音だからなるべく使わないほうがよい。とりわけ語頭におくのは禁物…」などのことばをよく聞きます。
だが、「バヤリース・オレンジ」「バイタリス」「バズーカ」「ギア」「ディオール」など、ヒットネーミングといわれているものに、濁音を冒頭においた例が限りなくあるのを見ても、こういう単純な言い切り方には大きな危険があることがわかります。
濁音には「暗さ」のほかに「落着き、重厚感、豪華さ、優雅さ、穏やかさ、暖かさ、暗さ…」など13の表情があり「暗さ」はその中の1つに過ぎないのです。
また、「アは明るい音」とよく言われますが「ア」には「明るい」のほかに「穏やか、無性格、汎用的」など11の表情がありますし、イは「強い、厳しい」と いわれているほか「鋭さ、小ささ、異常さ、冷たさ」など18の表情をもっていて、中の1つが他の音素と響きあう関係ができたとき、初めてそれが顕在化され た表情になるのです。
表情は、このほか次の場合にも生まれます。
たとえば、無声破裂音(p.t.k行音)とイ音の使用が多い語で、どちらにも「強い」「明るい」という表情語があるときは、ピ、チ、キ(pi,t∫i,ki)の音は「とりわけ強く明るい表情」になるのです。
ことばの音の表情はこんな複雑な仕組みで生まれるものですが、最近「N」(ナ行)の音は「甘く、セクシーな音」、「が」は「偉大さと凄みの音」など、明白 な裏づけのないイメージを単音(拍)に与え、人の姓名から1つか2の単音を取り出して名前のすべてのイメージを言い切る人がいますが、人の名前も普通のこ とばと同じように、そんな単純な方法では捉えられないのです。(木通)
母音はすべて有声音ですが、母音「iまたはu」が特殊な音素の間に入ると、息だけは出るが声にならない音(無声音)があります。音声学では、そのような母音を無声化母音と呼んでいます。
無声化母音の入った拍は、「明るさ、軽さ、現代的、西欧的、異国的」などの表情を作ります。
日本語は拍の末尾に必ず母音がつくため音の響きが重たく単調になる欠点がありますが、ところどころに無声化母音が入ることで重苦しさや単調さが救われるのです。
明治のころ、漢字ばかりで作った社名「三越(「みつ」こし)、三井(「み」つい)、三菱(「み」つびし)、住友(「すみ」とも)、日立(「ひ」たち)」な どの語を、今だに古く感じないのは、これらの語に無声化母音が多く含まれているからです。(無声化母音の拍を「」で示します。)
このような無声化母音の効用は、まだどこでも研究されていませんが、私は無声化母音は古くから日本語の音韻に底流している清冽な地下水脈のようなものではないかと思うのです。
無声化母音は、次の場合に生れます。
(1)母音uまたはiが無声子音またはm.n(有声音)の間に入ったとき。
例えば、「下谷」(∫itaja)のシの母音「i」は∫とt(ともに無声音)の間に挟ま
れるから無声化母音になりますが、「渋谷」(∫ibuja)のシは後続する子音「b」が
有声音であるため、iは無声化母音にはなりません。
この種の無声化母音をいくつか上げてみましょう。
(例)・「住」まい ・機関車(「き」かんしゃ)
・組合(「く」みあい) ・式場(「し)きじょう)
・気転(「き」てん) ・住友(「すみ」とも) ……
(2)語末の拍の子音が無声音またはm.n音で、母音がuで終わるとき。
(例)・〜で「す」 ・メン「ツ」 ・勤務(きん「む」)
・シャ「ツ」 ・毛布(もう「ふ」) ……
(木通)
Q.
大衆の平均的感性とはどういうものをいうのですか
(横浜・M国方)
A.
私は「大衆」ということばをよく使います。
それは音相論が、平均的大衆の語音感覚を基本にできた理論であるからです。
新しいことばをはやらせたり、死語にするのは誰によって行われるのか。それは、特殊な直観力や感性をもつ専門家ではなく、一般大衆の平均的な感性によって行なわれているのです。
だが、音相論にきわめて重要な「大衆」ということばは、社会学や言語学の論文などには出てきません。
理由は「大衆」という概念があまりに抽象的で実体がつかみにくいため、学問の対象にならないからです。
そこで私は音相論としての必要から、「大衆」という語を次のように定義づけてみました。
「大衆とは、生産物の消費者やマス・コミュニケ−ションの受け手として受動的立場にある無定型、無組織の人々だが、ある事態に対したとき、一定の思考基盤の上で事象についての善悪、良否、美醜、正否などを判断できる人々のことをいう」と。
定義づけたら、こんなことばになってしまいました。 (木通)
ことばの音の感覚を高めるには、さまざまな経験や学びが必要ですが、基本的な心構えとして次の2つがあるようです。
1.「ことばの音」を意識の上にのせる習慣
まず、普段無意識に使っていることばを、意識の上にのせて考える習慣をつるることです。
たとえばことばを話すとき「牛乳というよりもミルクの方がよいのでは」、「感覚というよりセンスの方がよいのでは」…など、同義語や類義語の中から文脈にもっともふさわしい音を持つ語はどれかを考える習慣を身につけることです。
これは誰もが日常ほとんど無意識的に行っているものですが、それを意識の上に乗せ
ることによって、「なぜか」の疑問が生まれ、そんな中から不思議な音の世界が見え
てくるのです。
2.難音感を聞きとる訓練
次になすべきことは、自分が話すことばの中に、言いにくい箇所があるかないかを聞き取る訓練です。
言いにくいことばは、使い方によっては特殊な効果をあげることもありますが、基本的には文脈の音の流れを壊しますから、なるべく使用を避けることが大事です。
「特殊な効果を上げるとき」とは、音の流れを壊すことによりその語のイメージが作られるような場合です。そういう効果を上げている語に「デコボコ」「ゴツゴツ」
「ピカピカ」「激辛」などがありますし、商品名にも「ペプシコーラ」「コカコーラ」などがあります。
ことばの専門家といわれる人の中にも難音語をあまり意識しない人が見られましたが、大衆がことばの音に高い感性を持つに至った現代では、文章やネーミングの制作において難音感への知識は最低、身につけておかねばならないものといえましょう。
難音感の研究はまだどこでも行われていませんが、音相理論では『同系の調音法音種が3連続以上したとき』や、『促音(っ)の後に有声音がきたとき』など難 音感が起こる9つのケースを捉えています。深く研究されたい方は参考書「日本語の音相」(254ページ)をご参照ください。(木通)
小説家は作中人物の名前探しに意外な苦労をするようです。
平凡な名前は印象が弱く、スマート過ぎるとキザになるとか、名づけを間違えたため性格の違う人物になってしまったなどという話しもよく聞くところです。
このことは、人の名が性格や生きざまなどと深くかかわっていることを意味します。
たしかに明るい響きの名前には明るい性格の人が多く、派手なイメージを持つ人にはどこかにそんな一面が見られますが、それは心理学的にも十分説明できることなのです。
ポピュラー音楽ばかりを聞いて育った子とクラシック音楽の中で育った子は性格に違いがでるという実験結果もあるようですが、名前の音の場合でも「ミサキ、 ミサキ」と同じ音で朝晩呼ばれ、ミサキと自分とを一体のものと意識してゆくうち、「ミサキ」という音が持つ表情がその子の表情となり、雰囲気となり、やが てそれが性格の中へと入ってゆくのです。
人の性格は、その後の環境や経験の違いなどで種々のものを付加してゆきますが、幼少時に身につけたものは基調的な性格としてほとんど定着してゆきます。
このような現象を昔の人は「名は体を表す」といいましたが、身近なところでも名前が体(実体)を表し、実体が名前を表している人の例は数多くみられます。
次に、誰もがご存知の、4人の姓名を音相分析してみました。
高齢化時代を迎えて「老化、加齢に対抗する」ことばとして、最近「アンチ・エージング」ということばはが聞かれるようになりました。
エージングとは英語の「老化、加齢」を意味し、「アンチ・エージング」は「老化に対抗する」という意味のことばです。
アメリカでは「アンチ・エージング・メディスン(抗加齢医学)が1990年代から研究されているそうですが、わが国でも21世紀のキーワードとして、若返りの医学や薬学をはじめ、美容、デザイン、社会生活や食の分野などさまざまな方面で研究されてゆくことでしょう。
このことばには、何となく爽やかな気品のようなものが感じられますが、その原因がどこにあるかを調べてみようと音相分析をしてみました。
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メインのイメージを作っている5位までの表情語として、「暖かさ、高級感、充実感、静的、高尚さ、優雅さ、安定感、信頼感」などがあり「静的」な音(薄色 の青線)を集めて高齢者がもつ豊かさや気品を出し、6位以下(中薄および濃い青線)で、「強さ、個性感、若さ、溌剌感、健康感」など若さや華やぎ感や活力 感などをつけ加えて、語の意味とイメージを調和させているのがわかります。
こういう雰囲気はどんな音から生まれるのか。それはこの表か らは見られませんが、正規の分析表をみると「気品や豊かさ」は「有声音と濁音の多用、マイナス輝性、多拍」から生まれたもんだし、「華やぎ感や若さ」は 「じゃ」(摩擦拗音)の1音とイ音の多用で得られたものであることがわかるのです。(木通)
ことばの「表情」を分解してゆくと、究極的に次ぎの5つのものに集約されます。
陽・・・・・・・(明るい…プラスの表情…+B)
陰・・・・・・・(暗い…マイナスの表情…−B)
陽、陰ゼロ・・・(どちらでもない表情…B0.0)
強い・・・・・・(強さがある…H0.1以上)
弱い・・・・・・(強さがない…H0.0)
(注、BはBlightness、HはHardnessの略)
これらを組み合わせると、ことばが作る表情には次の6種類があるのがわかります。
1.明るく強い表情・・・・・・・・・(+BとH0.1以上)
2.明いが弱い表情・・・・・・・・・(+BとH0.0)
3.暗いが強い表情・・・・・・・・・(−BとH0.1以上)
4.暗く弱い表情・・・・・・・・・・(−BとH0.0)
5.明るくも暗くもないが強い表情・・(B0.0とH0.1以上)
6.明るくも暗くもなく弱い表情・・・(B0.0とH0.0)
次にことばの表情を捉えるため、国語辞典から感情の入ったことば(1289語)を取り出して、感情の内容にしたがって上の6種に分類し、それぞれの中にどんな音素が多用されているかを調べました。
それを元にことばの表情を作る40種の音相基を捉え、ことばの中に含まれている音相基同士の重なり合いから生まれる表情と、表情語同士の響き合いから生まれる「情緒」を総合し、それぞれの質と量に所定のウエイト数を掛けてでたのが音相分析表です。
【Q1、音相理論でネーミングが作れますか。】
A.
一時、ネーミングを作り出すソフトが開発されたことがありました が、実用化には至りませでした。その理由は、わずか3拍(3音…たとえば「ひたち」)のネーミングを作る場合でも、日本語が持っている拍数138拍の3 乗…262万8千語という膨大なことばが取り出されるため、そこから有効なものを選ぶ作業が大変だからでした。
ことばは、ナマ身の人間のことば経験と感性の中から生まれてくるもので、理論やコンピューターから生まれるものではないのです。
(木通)
【Q2、はっきりした表情を捉えられない語がありますが、
それはどんな種類のことばですか。】
A.
はっきりした表情が出てこない語の例として、次の場合が上げられます。
@複雑な内容を持っている語
陽と陰、強さと弱さ、静的と動的、活性的と非活性的など、反対方向を向く
概念が対立している語の場合、これらの要素が内面で相殺しあうため、明白な
表情となって表に出てこないのです。
こういう例は複雑な内容をもった語に多く出ますが、明白な表情が出ないか
ら良くない語というものではありません。
(例、UFJ、JR、DOCOMO、JA、ニコン…)
Aあいまいな意味をもっている語
あいまいな意味や、不明瞭さを意味に持つ語は、当然、表情語もあいまいな形
で表われます。
(例、まぼろし、あいまい…)
B意味だけを考えて作った語
意味だけを考えて作った語は、音相的な配慮がもともとありませんから、そこ
から明白なイメージを捉えることはできません。
(例、悪魔、鎮魂歌、キャバクラ、ボキャ貧、激辛…)