7月の記事一覧
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7月の記事
うっとおしい梅雨が明け、あちこちから笛や太鼓と威勢のいい掛け声が
聞こえてくる季節になりました。
お神輿を担ぐときの掛け声「わっしょい」が、最近「せーや」にかわっている
ところが増えているようです。伝統的な雰囲気をもつ掛け声がどうして
こんなことばに代わったのか、10年前ほど前、これに疑問をもった私は、
ある雑誌に次のような記事を書きました。
(皆さんも、Onsonic体験版を使って確認してみてください)
『音相理論で分析すると、これらのことばには次のような、共通点と違う点が
あるのがわかる。
@ 共通している点・・・鄙びた感じ、単純さ、活性感、軽快感、強さ、鋭さ、
動く感じ、合理的、現実的、孤高感
A 共通しない点・・・・「せーや」・・よそよそしさ、排他的、疎外的、冷たさ
「わっしょい」・・暖かさ、親愛感、むつみ感
この比較から、どちらの語にも、単純さや活力感の中に庶民的な一抹の哀れ
(孤高感)を秘めた「祭りに相応しい音を持つことばであるのがわかるが、
「わっしょい」には、仲間を意識した家族的な暖かさがあるのに対し、
「せーや」には、他人や仲間より自分が楽しむ祭りといった現代人の意識の
一面がのぞいいている』と。
遠くに祭囃子の太鼓の音を聞きながら、こんな昔の記事のことを思いだしました。
UFJのような、アルファベット並びのネーミングは、
日本語の文字の中では座りの良くないことばですが、2年半前、この語が
銀行の名として登場したとき、私はその無神経さに驚きました。
このことは、その後発行した小著「ネーミングの極意」(ちくま新書)の中
でも、好ましくないネーミングの例として取り上げましたが、
それからわずか、3ヶ月たった7月16日、東京三菱銀行との再合併を余儀なく
されたというが報道がありました。
この語を分析すると、次の表情語が現われます。
(Onsonic体験版に入力してご覧ください。)
表情解析欄で「安定感、信頼感、高級感、高尚さ、穏やかさ、暖かさ」が
上位に出ます。
これは銀行一般が持っているイメージですが、UFJのような新生銀行が
ぜひ訴えていなければならない「庶民性、溌溂感、現代感、明るさ、合理性」
などの項がすべて0ポイントになっているのがわかります。
このことは、当行は銀行としての普通の仕事は行うるが、新しい意欲など
持たない銀行であることを示しているようなことばです。
それにつけても、名前の音相が、その実態やモノの心をここまで正しく
捉えるものであることに、改めて驚きを禁じ得ないのです。
・・・・・音相分析は医者の診断法と似ている・・・・・
ことばが持つ表情は、主に表情解析欄以下、複雑度欄、特記事項欄、
情緒解析欄、コンセプト・バリュー欄などで捉えますが、ことばの中には
表情解析欄より情緒解析欄の方が的確に捉えているものもありますし、
コンセプト・バリュー欄のほうが明白なものを見せている語も少なく
ありません。したがって表情評価を行うときは、初めにでている表情解析欄
だけをみるのでなく、医者が患者を診察するときと同じような思考法と手順が
必要になるのです。
医者はカルテや問診などで基本データーをまず捉え、それを基本におきながら、
血液検査、レントゲン検査、心電図検査の結果などをみて総合的に診断を
しています。
この場合、血液検査で捉えられないものがレントゲン検査で得られたり、
心電図検査でしかわからないような場合もあるのです。
ことばの表情を捉えるときも、すべてに欄を見たうえで、最も正しいと
思えるものを選らばなければならないのです。だが、それを捉えるためには
評価者の経験と感が必要となりますが、一般的に言って、はっきりした
(単純な)な意味をもつ語は表情解析欄だけで捉えられるものが多いですが、
複雑度が高くなるにつれ情緒解析欄などからしか得られないものが多くなる
のです。
・・・・・可能にした4つのキーワード・・・・・
音相理論はことばの音が作る表情(イメージ)を具体的なことばを使って
数値的に捉えることに成功した世界初の試みですが、このような理論の開発が、
なぜ日本語で初めて可能になったのでしょうか。
それは、日本語が持つ次の4つの特徴から生まれたものと思います。
まず、日本語が文法や文の構造が精緻な言語体系をもっていること(敬語など
1部に例外もありますが・・・)と、日本語が他言語の影響をほとんど受けていない
純度の高い言語であることがまず上げられます。、
これらについては折にふれて述べたてきたので、ここではその他の理由として
さらにk2つ、日本語の拍(音節)がきわめて手ごろな数であったことと、
日本語が豊富な語彙を持つ言語であったことを述べてみたいと思います。
ことばの表情は、音の単位が基本となって生まれます。そのような単位となる
ものに、日本語には拍というのがあります。拍とは、50音図にある清音、濁音の
ほか、拗音、新子音および特殊音素などで、合計130余ありますが、それがことば
の表情を捉える単位として、極めて適切な数であったことが上げられます。
そのことを英語の例を引き合いに考えてみたいとおもいます。
英語の拍(音節・・・Syllable)の数は極めて多く、学者によっては「1800余」、
「3000程度」、「一万位」などその数もまちまちで公表されたものはありません。
だが音節数がこのように多くなると個々の音節と表情の関係が曖昧となり、
音節の表情が取り出しにくくなり、また拍(音節)の数が少なすぎると表情の
幅が広くなって、やはり表情の方向性がぼやけてしまいます。その点、130余と
いう日本語の拍数は表情を捉える単位として極めて妥当な数であったのです。
音相論の立論を日本語なるがゆえに可能にした4つ目の理由として、
日本語には、意味が微妙に異なる類義語の数が極めて多いことがあげられます。
類義語の数が多ければ、多くの類義語から音のよい語がとりだせるため、
音相的な感覚が自然に生まれてくるのです。
「音相ジャーナル」の購読者から、いろいろな質問メールをいただいています。
そこで、今回から「質問と回答」欄を設けさせていただきました。
お答えは木通先生がいたします!!
【Q】
略語を作る場合、何かルールのようなものがあるのでしょうか?
日本語には、ことばを4音以下の略語にする文化があるようです。
例えば、「木村拓哉」→「きむたく」というように。この種の略語の作り方には
どんな法則があるのか、教えてください。
特に、私が以前から気になっているのは、
「スーパーファミコン」 → 「スーファミ」
「スーパーマリオ」 → 「スーマリ」
「スーパーロボット大戦」→ 「スパロボ」
の略し方です。
なぜ、「スーパーロボット大戦」は「スーロボ」とはならないのか?」
もしくは、「スーパーマリオ」は「スパマリ」では定着しなかったのか?」です。
(姑獲鳥(うぶめ)さんからのメールです)
【A】
最近の流行語などには、ご指摘のような2つの語を1語にまとめたことばが
多いですが、そういう語を作るときの必要要件として
@元の語の意味がある程度連想できること。
A簡略化した新語の音相が、元の語の意味やイメージに相応しい音で
できていること。
があるように思います。
元の意味を連想させるためには最低2音が必要なため2音+2音=4音
くらいのことばになるのです。
「スーパー」という語を2音で表現するには「スー」か「スパ」しか
ありませんが、「スー」ではあまり漠然としていて意味的連想ができないし、
「スパ」には音相的な「安定感」がないため「スーパー」を省略した新語で
成功している例を見たことがありません。
「スーファミ」「スーマリ」「スパロボ」は、よいネーミングだから
使われているのでなく、新奇さ(ナウさ)で一時買われただけか、ネーミング
以外の要因(良品質、低価額、広告など)によるものと考えるのが妥当のように
思います。
「スーロボ」「スパマリ」も同列の音相で、制作関係者の好み(主観)で
選択されただけのものといってよいでしょう。
○係りでは皆さんからのご感想や、質問をお待ちしています。
こちらまで→→ info@onsosystem.co.jp
・・・・・豊かな表情と奥行き感・・・・・
都市名や、公共施設などのネーミングには、多くの人々の期待や、望みや
夢を盛り込みたいものです。
そのため、取り入れたいものが多くでてきて「表情語」の種類が多くなります。
だが、表情語の数が多くなると、互いに相殺されて明白な表情が浮かばない
ことばになる場合が多いのです。
東京、京都、札幌など、多くの都市名などにその傾向が見られますが、
この5月に改称された「東京メトロ」
(旧帝都高速度交通営団・・・通称、営団地下鉄)の場合はどうでしょうか。
Onsonic簡易版で表情解析欄を見ると、「活動的、高級感、安定感、現実的、
合理的、若さ、新鮮さ」などの表情を明白に捉えたことばであることがわかり
ますが、やはり、表情語が多く盛り込まれているため、ポイント数が
最高30.0とインパクトの弱い語になっており、複雑度もきわめて
高い値(9)を示しています。
この簡易版の表から見る限り、あまり良い結果はでていませんが、
この語を本分析表で見てゆくと、コンセプト・バリュー欄に
「動く感じ」や「スピード感」が強く表現されているほか、「地下」をイメージ
させるオ、ウ音や逆接拍の多いなどで、未来へ続く線路のような豊かな表情を
もつ奥行き感のあるすぐれた音相のことばであることがわかるのです。
新しいことばを作ったり、はやらせたり、捨てられてゆくのは、
作家やコピーライターなどことばの専門家などによって行われるものでなく、
ことばが持つ微妙なイメージのことを考えながら、ことば選びをしている
一般大衆の平均的な感性によって行われているのです。
○平均的感性とは?
それは、特別な直観力や感覚を持っている人ではなく、日本人の誰もが
ことばの音にたいして感じている常識的な感覚のことを言うのです。
音相は、そのような大衆の感性によって選ばれたり、また捨てられてゆく
ものですから、「音相理論の主役は大衆だ」といってもよいのです。
○「大衆」とは何か
「大衆」という言葉は、社会学辞典や言語学の論文などには出てきません。
「大衆」は実態があまりに漠然としているため学問の対象となりにくいから
なのでしょう。
だが、学問の対象とはならなくても、音相理論の立場からは明白な定義づけを
しておかねばなりません。
私はそこで、この語を次のように定義づけてみました。
「大衆とは、生産物の消費者やマス・コミュニケ−ションの受け手として
平常時は受動的な立場にある無定型、無組織の人々だが、ある事態が生起した
とき、一定の思考基盤の上に立って、その善悪、良否、美醜、正否を判断
できる人々」と。
定義づけをしたら、こんな難しいことばになっていました。
・・それは、ことばの「心」を伝えるもの・・
○ことばには表情がある
「あか(赤)」ということばが伝える音には明るさや情熱的なものを
感じますし、「くろ(黒)」ということばが伝える音には、暗く淀んだ
イメージのようなものを感じます。
また、「甘いと辛い」、「強いと弱い」、「明るいと暗い」など反対の意味
をもつ語を比べてみてもそれぞれが意味やムードにふさわしい音を持っている
ことがわかります。
このように、ことばの音が持っている表情のことを音相といいます。
1つ1つのことばに表情の違いがなぜ生まれるのかといえば、それは
それぞれの音に含まれている音素(正しくは音相基)の違いや、それらの
響きあいから生まれます。
ことばの音がもつそのような表情は、遠い先祖以来、日本人が日本語との
長い付き合いの中で身につけてきたもので、それは日本人なら誰もが同じ
ような内容で感覚できるコモンセンスといってよいでしょう。
私たちは、誤りない意思の疎通を行うため、日常ことばが伝えるイメージに
ついてキメ細かい配慮をしています。
○ことばの意味とイメージの関係を科学的な根拠によって明らかにした
のが音相理論です。
※音素とは、破裂音、摩擦音、有声音など、音声を出すときに操作される
26の方法(調音種ともいう)
※音相基とは、表情を作る単位となるもの。音素の外、多拍、少拍、濁音、
調音、など合計40種のものがある。
・・・正規の分析表とどこが違うか・・・
正規の分析表でことばを分析すると、別紙のようなデーターが出てきますが、
このホームページで体験していただいているOnsonic体験版では、本分析表の
次の欄が省略されています。
@特記事項欄(分析評価を行う際、特に注意すべき「注意事項」の欄がない)
A情緒解析欄(情緒の種類には18種のものがありますが、体験版には
その欄がありません)
Bコンセプトバリュー欄(性別、年齢区分以外の表示がありません。)
C表情を捉える上で重要なデーターである次の項目が省略されています。
「プラス指向かマイナス指向か」
「逆接拍」
「無声化母音」
「濁音」
「母音の構成」
「子音の偏差状況」
「高勁輝拍の使用状況」
など根拠となる音相基の表示がありません。
以上から体験版はその語の表情がどんな方向を向いているかを
ごく大まかに捉えたもので、微妙な表情や情緒や、複雑さの内容などは不明です。
○そのことを「冬のソナタ」の題名でみてみましょう。
この映画は、韓国ではテレビでも高視聴率の番組で、わが国でもNHKテレビでも
放映されていて国内のファンも多く、タレントグッズなども多く出ているようです。
【表情解析】
50.0┃R┃充実感高級感
40.9┃Q┃信頼感安定感
30.0┃T┃非活性的静的
27.3┃P┃安らぎ暖かさ
27.3┃S┃優雅さ高尚な
0.0┃A┃明白さシンプルな
0.0┃B┃進歩的躍動感
0.0┃C┃新奇さ新鮮さ
0.0┃D┃活性的動的
0.0┃E┃賑やかさ派手さ
0.0┃F┃軽快感軽やかさ
0.0┃G┃溌剌さ若さ
0.0┃H┃都会的現代的
0.0┃I┃開放的明るさ
0.0┃J┃現実的合理的
0.0┃K┃特殊的個性的
0.0┃L┃鋭さ、強さ
0.0┃M┃庶民的適応性
0.0┃N┃爽やかさ清らかさ
0.0┃O┃清潔感健康的
【複雑度】 複雑3
【特記事項】 難音感(不協和感、特殊感、異質感)
【情緒解析】
長期的┃あいまい感、情緒的、ためらい感
┃人肌の温もり感、ふっくらとした感じ┃
あいまい感、情緒的、ためらい感┃穏やか、クラシック
┃不透明感、神秘的、哀感┃
夢幻的、メルヘン┃普通でない感じ、不思議な感じ┃孤高感、寂しさ┃
大らかな感じ┃
【コンセプトバリュー】
男性ヤング層・若さ・溌剌┃11.4
男性ミドル層 ┃20.0
男性シルバー層 ┃87.3
女性ヤング層 ┃11.4
女性ミドル層 ┃80.0
女性シルバー層 ┃87.3
ジュニア(幼児・可愛らしさ)┃17.8
甘味・おいしさ ┃38.5
辛味 ┃8.3
にが味・渋味・酸味 ┃25.0
春の風情・暖かさ ┃30.0
夏の風情 ┃15.4
秋の風情・爽やかさ ┃20.0
冬の風情・冷たさ ┃40.0
黒い感じ・濃い感じ ┃50.0
白い感じ・淡い感じ ┃37.5
動く感じ ┃0.0
不透明感・重たい感じ ┃37.5
コンパクト・簡便さ・安直感 ┃7.7
スピード感・緊張感・スポーティー┃0.0
【音価】
フ┃fu┃摩擦音・両唇音・無声音┃-B1.0┃H0.0┃
ユ┃ju┃接近音前舌音有声音 ┃-B0.5┃H0.5┃★
ノ┃no┃鼻音前舌音有声音 ┃-B0.7┃H0.0┃
ソ┃so┃摩擦音前舌音無声音 ┃-B0.6┃H0.7┃★
ナ┃na┃鼻音前舌音有声音 ┃ B0.0┃H0.0┃
タ┃ta┃破裂音前舌音無声音 ┃B1.4 ┃H1.5┃
特性検出
@総合音価 -B1.4 H2.7
A有無声変化無 有 有 無 有 無
B調音種比 6拍: 6音種
C調音種偏差無声摩擦音系多用、鼻音多用、摩擦音系多用
D順逆接構成 2
E母音変化u u o o a a
F無声化母音 0
G高勁輝拍 1
H子音拍 0
I新子音 0
【有効音相基】
ウ音、オ音多用、鼻音多用、マイナス輝性、逆接拍多用、摩擦音系多用
【有効特性】
○甲 3ウ音、オ音多用 Q:安定感、Q:信頼感、Q:落着き、S:高尚な、S:優雅さ、
T:静的、T:非活性的、T:奥行きのある
○甲29逆接拍多用 P:暖かさ、P:安らぎ、P:穏やかさ、
Q:安定感、Q:信頼感、Q:落着き、
R:高級感、R:充実感、R:豪華さ、S:高尚な、S:優雅さ、
T:静的、T:非活性的、T:奥行きのある
乙21摩擦音系多用×鼻音多用 P:暖かさ、 P:安らぎ、P:穏やかさ
乙31マイナス輝性×逆接拍多用 Q:安定感、Q:信頼感、Q:落着き、
R:高級感、R:充実感、R:豪華さ、
S:高尚な S:優雅さ
★Onsonic体験版の分析で、
是非、「ふゆのそなた」と入力いただき、試してみてください。
本分析には、「情緒性、人肌の温もり感、夢幻性、孤高感、寂しさ・・・」など
情緒の具体的な内容説明や根拠の提示がありますが、体験版にはこれらの表示が
省略されているため体験版で音相の良否を判断することはできません。
特に、多面的な意味を持つ複雑なことばや、漢字の意味だけで造られたことば
などは、体験版は、音相分析の一部を体験をしていただくために設けたもので
すから、軽い参考程度に見られることをお勧めします。
とくに大切なネーミングなどをきめられる時などは、必ず当研究所の専門家
による診断をおすすめします。
・・・「濁音」はすべてが暗い音ではない・・・
ネーミングの専門家たちの間で
「濁音は暗い音だからなるべく使わないほうがよい。」
とりわけ語頭におくのは禁物」といったことがよく言われます。
ですが、好評といわれているネーミングもあります。
「バヤリース・オレンジ」「バイタリス」「バズーカ」「ギア」「ディオール」
など、
ネーミングの中に濁音を冒頭において成功している例が多いのをみると、
このような判断は基本的に大きな誤りがあることがわかるのです。
それは、ことばの音が作る表情を一面だけでしか捉えていないことなのです。
○濁音の音相は・・・
濁音には「暗さ」のほかに
「落着き、重厚感、豪華さ、優雅さ、穏やかさ、暖かさ、」などが
あることがすべて無視されていることです。同じことがアイウエオ、
カキクケコなどの拍(音節)についてもいえます。
アは「明るい音」とよく言われますが、「ア」には「穏やか、無性格的な音、
汎用的な音」などの表情もありますし、イには「明るく、強い音」といわれて
いるほかに「鋭さ、小ささ、異常さ」などの表情もあるのです。
このように、音の一つ一つは幾種類もの音相を持っていて、中の一部が他の音
の一部の表情と響きあったとき、顕在化された「表情」になるものが多いのです。
また、無声破裂音(p.t.k行音)とイ音の間に「強い」「明るい」という
共通点があるからこそ、「ピ、チ、キ」を「強く明るい音」として客観的に
理解することができるのです。
ことばの音は、このような複雑な構造でできているのです。
・・・現代人は、文字で読まずに音で読む・・・
最近の若者たちの間で、やさしい漢字が読めない人がふえています。
だが彼らは文字は読めなくても、耳から入る音の感じでその語のイメージを
捉える感性をもっていて、通常の会話などではさほど不便を感じることはない
ようです。
たとえば「不撓不屈」(ふとうふくつ)という語について、文字がもつ意味
はわからなくても、音からうける感じによって「活力感や逞しさ」のような
ものを感じる感性をもっているのでます。
このことは、これまでことばを文字中心で考えてきた日本人が、ことばを音
そのもので理解する傾向が見られるようになったと考えてよいでしょう。
これは日本語の長い歴史の中で画期的な出来事ではないかと思います。
そのことは「ルイ・ビトン、ディオール、アルマーニ、エルメス・・」の
ような意味をもたない外国のブランド名が音の良さだけでわが国でヒットして
いるのを見てもわかります。
今、「チャパる」「超」「ムカつく」「チクる」など、どぎつい音を集めた
日本語がはやっています。ことばを遊び道具として捉えるこのような風潮には、
ユーモア性を越えた何かさびしいものを感じますが、こういう時代の流れの奥
に見られる現代人の語音感覚のレベルの高さには目を見張るものがあるのです。
昭和の初め、モダン・ボ−イ、モダン・ガ−ルを略した「モボ、モガ」という
ことばが流行りました。これらの語は、溌らつさや明るさをもたない濁音やオ、
ウ列音ばかりでできているため、ことばがもつ
意味とは似ても似つかぬ暗く湿った雰囲気を感じることばですが、そういう
ことばが、十年以上、気にもされずに使われていたのいです。
当時はこの他にも「ランデブ−、銀ブラ、アドバルン」などの流行語があった
ようですが、どれを見ても、当時の人が言葉の音にいかに無関心だったかが
わかるのです。
それに比べて現代人はどうでしょうか。
「ビッグ・エッグ」、「DIY(ディ−アイワイ)」、「WOWOW(ワウ
ワウ)」など音の響きに不自然なものを感じると、発表になったその日から口に
する人がいませんし、前出のブランド名のように意味は不明でも音が良いだけで
高い人気を得ているものが目立ちます。現代人は、音が伝える表情を効果的に
使って生きた会話を交わしていますし、音が作る表情が意味に劣らぬ働きをして
いることも肌で感じて知っています。
○これからのネ−ミング作りは、ことばの「音」がもつこのような働きを無視
しては成り立たないのです。
・・・意味としての語感、イメージとしての音相・・・
よく聞かれる質問ですが、その違いを明らかにしてみましょう。
言語学では、ことばに感じる「語感」は意味の一部として、意味論という理論の
中で取り上げられています。そして、「意味」には事物が持つそのものの意味、
(中心的な意味、または指示的意味)と周辺的な意味とがあり、周辺的意味のこと
を「語感」と呼んでいます。さらに、語感には
@意味的語感(「感性」と「感受性」のようなことばに感じる違い」)と、
A感覚的語感(「顔」と「お顔」ということばに感じる違い)
があるといわれています。
だがこれらはどちらも類義語に属するもので、どちらも「意味」の範囲を出る
ものではありません。
これに対し音相は、ことばの音が作るイメージや雰囲気を指すものです。
そのため音相論は、ことばのもつ「表情」や「情緒」が対象となります。
・・・音のイメージ効果に気づいた現代人・・・
最近、文章を声に出して読むことの大切さを説いた書物がいろいろ出版され、
ことばの音の作る効果が見直されるようになりました。長年、語音のイメージ
を考えてきた私にとって、世間がやっとことばの音に気づいてくれたかという
思いです。
声を出して読むことが、黙読よりなぜ良いのか、それは音相論で説明すれば
答えはきわめて簡単です。黙読は、文字が直接意味と結びつくため音による
「イメージ」効果が働きませんが、音読すると意味だけでなく音が作るイメー
ジが同時に伝わるため、内容への理解や認識に厚みが増し、印象的で記憶に残
るからです。
「爽涼」という字は「涼しく爽やか」という意味を伝えますが、「そーりょ
ー」と音読すると、爽やかな季節の風のようなものまで伝わってくるではあり
ませんか。これが「音相」の世界なのです。
・・・映画「ロード・オブ・ザ・リング」と「指輪物語」・・
むかしの西洋映画には「制服の処女」「外人部隊」「望郷」「しのび泣き」
「駅馬車」など題名に惹かれて見にゆくものが少なくなかったように思います
が、昭和30年ころからカタカナ語のものが増え、何となく味気なさを感じてい
る人も少なくないのではないでしょうか。
このような現象が起こったのは、一般の人々の漢字知識が低下したため、
漢字が使いにくくなったことが原因ですが、そうした傾向から副題的なものを
つけて日本語で意味を補うものが増えています。
○副題をつける場合は、そこに音相的な配慮がされていなければなりません。
副題は主題を補うものですが、それぞれの語音がもつイメージに喰い違いが
あってはならないのです。 2つの語の間に喰い違いがあると、読む人のイメ
ージが混乱して、主題の印象がぼやけたものになるからです。
いま話題の映画「ロード・オブ・ザ・リング」では「指輪物語」という語を
副題的に使っていますが、これら2つの語の間にイメージ的な違いがないか
どうか、Onsonic体験版で分析してみました。
その結果はどちらの分析表にも、表情語の上位の部分に現代感のイメージを
作る「シンプル感」や「高級感、優雅さ」など、この映画に相応しいイメージの
音をもっていて、指輪物語の方に「派手さ、庶民的」がないのがわずかな違い
といえましょう。
「指輪物語」は、主題「ロード・オブ・ザ・リング」の意味を補いながら主題
のイメージをさらに明白なものにする効果を持つ優れた副題だといえましょう。
音相を分析すると、このようなことばの奥にある微妙なものが見えてくのです。
・・・菊五郎、冨司純子、寺島しのぶ・・・
不世出の名優と謳われた六代目菊五郎を義父に、夫は七代目菊五郎、
その妻、冨司純子(その後寺島純子に改名、女優)と娘、寺島しのぶ(女優)の
芸能一家について、3人の芸風の違いを音相分析がどこまで捉えているかを試し
てみました。
(※「Onsonic体験版」を使ってあなたと一緒に考えてみましょう。)
・尾上菊五郎・・・
高尚優雅で、充実した中に暖かな安定感があり、伝統芸ひと筋に生きる人を
表現するに相応しい、優れた名前であることがわかります。
・冨司純子(その妻)・・・
夫の性格と同じ高級感、優雅さ、穏やかさ、安 定感、暖かさをもっている
うえ、進歩的、新鮮、派手さ、若さがあり、そのような幅が「緋牡丹博徒」
「八州遊侠伝」など多くの任侠映画で姐御役を演じて圧倒的な存在感とまでいわ
れました。
・寺島しのぶ(その娘)・・・
この名が持つ音相は、父や母とは様変わりして、庶民的な派手さ、開放感、
スピード感があり、それが新歌舞伎「世阿弥」(山崎正和作)で三津五郎との
鬼気迫る演技をはじめ、「新、近松心中物語」(蜷川幸雄演出)では遊女梅川を
好演し、映画でも「赤目四十八滝心中未遂」「ヴァイブレーター」で昨年度数々の
女優賞に輝きました。ときには汚れ役に挑戦したりきわどいセックスシーンを
やってのけるなど、母、純子とはまた一味違う個性が芸名の上にも出ています。
○名前と人のフシギな関係?
芸風や性格が自然に名前を選ぶのか、名前が芸風を作るのか、
名前と人のフシギな関係を考えさせられる芸能一家の話です。