5月の記事一覧
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5月の記事
音数律の7音、5音の脚音と後続する頭音の間には、「同系の音を避ける」という不文律があるようだ。
そして、これらの音の間には、反対関係を作る次の音が使われている。
○ 有声音と無声音
○ 清音と濁音
○ O
金原の芥川賞受賞第二作は、現代社会にうごめく、児童性愛者、肉体自傷行為、レズビアンなどの狂気と、干からびた性の世界を背景に、「与える愛」の悲しさを描いた作品だ。
まず「アッシュベイビー」という語の音相は、「強烈な異常感」だけを表現した不思議な音相をもったことばだが、それは高勁輝拍(とりわけ勁性と輝性の強い音・・・シュ、ベ、ビ)とイ音の照応から生まれたものだ。
若者たちのナマのことばで綴った文章も魅力的だ。例えばこんな一節がある。
『私は本当は私は本当は本当は好きになって欲しいんだよ。本当は好きだって言ってる自分を認めて欲しいし、本当は求めて欲しいし、本当は好きだって言って欲しいんだよ。でも、本当は、だから別に嘘でもいいんだけどね。』
一見、行儀の悪い文章だが音の流れが美しい。このような不思議な流れに誘われて読者は非現実の世界の深みへ迷い込む。
金原は、こころに描く心象を音で表現しようとする新しい文章スタイルを持っている。そこにはやまとことばに回帰するようなほのかな安らぎも感じられるのだ。
ことばを音の面から捉える音相論の立場から、これら2作を私は深い感動をもって読み終えた。
この1月、私は4年がかりで『日本語の音相』(小学館スクウェア社刊)という硬い書物を書き上げた。
生涯かけて体系化した「音相理論」を、目一杯書き留めようと鬼のような執念だけでやっていたため、その日常は無味乾燥、自分とは遠いところで書いている自分がいやになり、数ヶ月間筆が止まったことも何度となくあった。
そんな反動も手伝って、同じテーマの音相論を反対の登り口から登ってみようと考えたのが、『ネーミングの極意』(ちくま新書)という音相入門書だ。
『日本語の音相』と引例などにダブりがあるが、読み返してみて私自身楽しくよめるし、笑いをこらえるようなこともある。のびのびした気分で書くと同じテーマもこんなに楽しいものなるのかと、われながら驚いているところである。
半分は入門書、半分ぐらいは私の与太話のようなものだが、それを引き立ててくださったのが、当研究所研究員でノンフィクション作家の森彰英氏と人工知能研究者でもある黒川伊保子氏で、お二人にはところどころで登場していただいた。いや、そちらの話のお陰でこの書ができたといってもよいだろう。そして忘れられないのは、すべてを見事にまとめあげ、演出してくださった筑摩書房の名編集者、磯千七美氏のことである。
音相という新しいことば科学を知りたい方は、はじめに『ネーミングの極意』から読まれ、深く知りたい方は『日本語の音相』を読まれることをおすすめしたい。
この1月、私は4年がかりで『日本語の音相』(小学館スクウェア社刊)という硬い書物を書き上げた。
生涯かけて体系化した「音相理論」を、目一杯書き留めようと鬼のような執念だけでやっていたため、その日常は無味乾燥、自分とは遠いところで書いている自分がいやになり、数ヶ月間筆が止まったことも何度となくあった。
そんな反動も手伝って、同じテーマの音相論を反対の登り口から登ってみようと考えたのが、『ネーミングの極意』(ちくま新書)という音相入門書だ。
『日本語の音相』と引例などにダブりがあるが、読み返してみて私自身楽しくよめるし、笑いをこらえるようなこともある。のびのびした気分で書くと同じテーマもこんなに楽しいものなるのかと、われながら驚いているところである。
半分は入門書、半分ぐらいは私の与太話のようなものだが、それを引き立ててくださったのが、当研究所研究員でノンフィクション作家の森彰英氏と人工知能研究者でもある黒川伊保子氏で、お二人にはところどころで登場していただいた。いや、そちらの話のお陰でこの書ができたといってもよいだろう。そして忘れられないのは、すべてを見事にまとめあげ、演出してくださった筑摩書房の名編集者、磯千七美氏のことである。
音相という新しいことば科学を知りたい方は、はじめに『ネーミングの極意』から読まれ、深く知りたい方は『日本語の音相』を読まれることをおすすめしたい。